2013年3月27日水曜日

読書『なめらかな社会とその敵』鈴木健著


いましがた読み終えた鈴木健さん(@kensuzuki)の『なめらかな社会とその敵』。
発売当初から話題になっていて、ずっと読みたかったのですが、勁草書房発刊ということで高価なため、尻込みしてました。マーケットプレイスにもなかなか現れないし。
ついに我慢しきれずに、新品をAmazonでポチってしまいました。

表紙の帯にある青木昌彦(スタンフォード大名誉教授)の言葉が光輝く。
インターネットがもたらす社会の生態学的進化をともに生き、造る若い世代の知的ネットワークの主要ノードである鈴木健。その彼が、社会科学の伝統的なストーリーを書き換え、実践的な意味を問う刺激的で、おおいなる可能性をはらんだ試み。
まず、専門が複雑系ということで
認知能力や対策能力が脳や技術の進化によって上がるにしたがって、単純化の必要性は薄れ、少しずつ世界を複雑なまま扱うことができるようになってくる。人類の文明の歴史とは、いわばそうした複雑化の歴史である。
という認識があります。

なぜ「フラット」ではなく、「なめらなか」なのか。
 フラットな社会は一見理想的なようで、生命のもつ多様性を否定している。一方で、なめらかな状態は、非対称性を維持しつつも、内と外を明確に区別することを拒否する。ある状態から別の状態までは連続的につながっており、その間のグレーな状態が広く存在する。


「なめらかな社会」が近代をアップデートするという確信の元、PICSYや分人民主主義・構成的社会契約論など、古くから受け継がれてきた諸思想・諸概念(貨幣論、間接民主主義、社会契約論)のアップデートを図りつつ、一つの大きな命題へと収斂させていく。
上記、3つの思想潮流の伝統を確認する意味でパッと3つの図書が思い浮かびます。




卒論で取り扱った「想像の共同体」で、アンダーソンが言っていたのは「想像」を可能したらしめたのは①俗語革命②出版資本主義がであったと述べました。
(この辺の話題については佐々木中さんの『切りとれ、あの祈る手を〈本〉と〈革命〉をめぐる五つの夜話』がオススメです)
つまりメディアのネーションワイドな勃興があったわけです。

グローバル化が進展して久しい今日、経済面でいえば国民国家の枠組みにとらわれないボーダレスな交易活動が活発化しています。文化の面でいえば、ハリウッド映画、マクドナルドなどをはじめとする最大公約数的な欧米文化が世界各国の大衆を飲み込もうとしています。
唯一、政治セクターのみが堅牢にその領域を未だ保持しているように思えます。

いかにして、想像を更新し、範囲を拡張し、グローバルな正義を構想できるのか。
これが主要テーマでした。
その意味でいえば、昨今のSNS勃興はメディアに地殻変動を巻き起こし、グローバル化を阻んでいた政治セクターの防波堤を乗り越えることができる糸口かもしれないという考えを持ったわけです。



その意味で非領土的なデモクラシー(ヘルドのコスモポリタン・デモクラシー)などに思索のヒントを求めつつ、正義の普遍的な定量化への可能性を次のテーマに掲げたいと思っていました。


そのような中にあって、この本をこのタイミングで手に取れた意義は大きいと思います。

「理系」・「文系」という狭隘なマインドを超越した筆者の知性と情熱は、人類の叡智が学際的に集積されていくプロセスをダイナミックに描いています
未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」
というアラン・ケイの有名な格言が著者を突き動かす動力源となっているように思われました。 

本の内容に深入りすると、収拾がつかなくなるし、なにより多くの人に本著を手にとり、知のフロンティアを眺望してほしいと思います。

さいごに、おわりから重要と思われる段落を抜粋。
主体性が膜の境界を溶け出ることは、社会を、個体のメタファーというよりは生態系のメタファーに近い存在にする。生命における代謝系に相当するのはリソースの分配を司る「伝播投資貨幣」によって、中枢神経系は意思決定を司る「伝播委任投票」によって、そして末端神経=筋肉系は実行を司る「構成的社会契約」によって、社会はその膜性を弱くした生態系へと変化する。経済においては競争相手、政策においては論争相手、政治においては戦争相手という、弱い意味から強い意味にいたるまで「敵」の概念がなめらかになる。これはいわば、オートポエーシスからハイパーサイクルへの退化といっていいかもしれない。


その他memo
 
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