Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer
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2014年5月20日火曜日

読書『もっとも美しい数学 ゲーム理論』トム・ジーグフリード著


ゲーム理論の中では、利己心と共感、競争と協調、戦争と平和が並び立つ。ゲーム理論を使えば、遺伝子と環境が互いに働きかけるさまや、遺伝と文化が互いに働きかけるさまを説明することができる。ゲーム理論は、進化による変化と安定性の対立を調整し、仲立ちすることで、単純さと複雑さとを結びつける。個人の選択と集団としての人間の社会行動とを結びつけ、精神の科学と精神を持たない物質の間の架け橋を造る。
この文章を読んだだけでワクワクしてきます。
ゲーム理論は学際性の申し子といったところがあり、文理問わずその応用が未だ試みられていない分野はほぼ皆無といってよいと思います。
先日書いた「ウォーキング・デッド」に関するブログでも、リバイアサンの原理を説明するのにじつはゲーム理論的なフレームワークを援用することが有益でした。
ゲーム理論が含むさまざまなエッセンスは日常のあらゆる場所に散らばっていて、もっとも典型的なものでいえば「不完全ゲーム」の最たる例、ポーカーがあります。
東洋経済オンラインの「東大卒プロポーカープレイヤーの勝負哲学―日本人初のタイトル保持者が戦いのすべてを語る」という記事を読むと、木原さんは当然のごとくゲーム理論にも通暁しているのが窺えます。

こうなってくると、数学や物理などいち学問分野にとどまらず、社会や人類の基本準則に底流に伏在する普遍真理のような気さえしてきます。

エピローグの最後はプリンストン大学の神経科学者であり哲学者でもあるジョシュア・グリーン氏のこんな言葉で締めくくられています。
「最後の最後にはいっさいの継ぎ目のない形で宇宙を理解したい。と、そういうことなんだ。もっとも基本的な物理要素から、化学、生物化学、神経生物学、そして個々人の行動やマクロ経済行動まで、あらゆる領域が継ぎ目なしに統合された形でね」
筆者のジーグフリードはそういった期待を抱えつつ、俯瞰的に「ゲーム理論」を眺め、その可能性を探り、位置づけを行っていきます。

ともあれぼくがはじめてゲーム理論の入門書を読んだときは、たしか大学1年生くらいの時だったと思います。


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すぐさま、その緻密な戦略性や汎用性の広さに興味を抱き、これは国際政治の力学に応用すれば何らかのテーマで卒業論文を書けるのではないかと思いついたものの、大学生の浅薄な考えは何十年も前に先人たちがひと通り研究をし終えているのだということも後には知り...。(なにも国際政治に限らず、心理学、経済学、神経科学 etc...)

もっとも有名なものでいえばトーマス・シェリングの『紛争の戦略』があるし(彼はノーベル経済学賞を受賞した)、他にもこの分野で有名な人と言えばロバート・ジャービスや『つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで』で有名な社会科学者ロバート・アクセルロッドなどがいますよね。


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上で触れたポーカープロ木原さんが、こんなことをおっしゃっています。
弱いプレイヤー相手には、あえてこちらがナッシュ均衡から外れたプレイをし、相手により大きなミスをしてもらうことを狙ったりもしますが、強いプレイヤー相手にこれをやると、相手が正確に対応してくるので、ナッシュ均衡から外れたぶんだけ損失を出してしまうのです。
強いプレイヤーというのはゲームが始まって2時間もすればわかりますからね。基本的なプレイでミスしない。それが見えれば「この人は強い。ここから勝たなくてもいい」と戦略を立てます。いわばディフェンスのためのプレイですね。「ナッシュ均衡」的なプレイは、あくまで「均衡」だから、得にも損にもならないんです。
また、不完全情報ゲームである以上、一定の割合でミスプレイは発生します。その結果、大幅な損失が出ることもある。ただ、それは利益のためにリスクは付きものなので、判断すべきは「リスクを取ることが割に合うかどうか」です。もし、そのリスクが割に合うものであり、資金管理がしっかりとできていれば、長期的には利益が出るのです。 
ポーカーは「ナッシュ均衡」を理解した上で、いかなる「混合戦略」を採用していくのかが戦略のかなりのウェートを占めるゲームです。


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ここでポーカー論に立ち入るつもりはないのですが、僕が注目したいのはこの「均衡」というもので、この言葉を聞いて真っ先に思い出したのが生物学者の福岡教授が『動的平衡』の中で語っていたこと。
生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けているのである。だから、私たちの身体は分子的な実体としては、数カ月前の自分とはまったく別物になっている。分子は環境からやってきて、一時、淀みとして私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。つまり、そこにあるのは、流れそのものでしかない。その流れの中で、私たちの身体は変わりつつ、かろうじて一定の状態を保っている。その流れ自体が「生きている」ということなのである。シェーンハイマーは、この生命の特異的なありように「動的な平衡」という素敵な名前をつけた。ここで私たちは改めて「生命とは何か?」という問いに答えることができる。「生命とは動的な平衡状態にあるシステムである」という回答である。そして、ここにはもう一つ重要な啓示がある。それは可変的でサスティナブルを特徴とする生命というシステムは、その物質的構造基板、つまり構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす「効果」であるということだ。生命現象とは構造ではなく「効果」なのである。
動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか
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物理学の側からフォン・ノイマン、オスカー・モルゲンシュテルンの『ゲーム理論と経済行動』に端を発し、ジョン・ナッシュがたどり着いた「均衡」も生物学の福岡教授がいう「平衡」も経路は違えど、一つの普遍的な真理、ジーグフリードがいう「自然の法典」へと近づきつつあるという気がしてならないのです。
ゲーム理論は、あらゆる科学(経済学、心理学、進化生物学、人類学、神経科学など)を統合する共通の数学言語を提供しており、これらの科学をパズルの駒のように組み合わせれば、命や精神や文化といった、集団としての人間行動の総体を明らかにする科学ができあがる。ゲーム理論の数学を物理科学の数学に翻訳できるという事実からも、ゲーム理論こそが、生命や暮らしと物理学とを統合する科学、つまり真の「万物の理論」をひもとくための鍵だといえよう。
高校1年生くらいのときに、この本を読んでいたなら、少し背伸びをしてでも理系の道に進んでいたかもしれない... そう思わせてくれる壮大な学問のお話。

もっとも美しい数学 ゲーム理論 (文春文庫)もっとも美しい数学 ゲーム理論
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2014年5月15日木曜日

「ウォーキング・デッド」に棲みつくリヴァイアサン


先日、「ウォーキング・デッド」をみ始めたよっていうブログを書いてから、もうシーズン3を観終えてしまいました。
もうね、抜群におもしろい。
シーズンを重ねるごとにおもしろさが加速していくドラマはそう多くないと思う。

なにが面白いかというと、人間の本源的な動物性・社会性がうまく描かれているからだと思う。
社会を失い、無秩序状態に突入すると、法律という人工的な制御装置が外れて、適者生存(survival of the fittest)が至上命令というか、唯一のルールに君臨してくる。
これはホッブズがいうところの自然状態(state of nature)に近く、そこから「万人の万人に対する闘争」(the war of all against all)的世界観が趨勢をなしていく。
それでも微かな理性は保持しながら、個人というより、グループの保存をいかに維持できるかに考えが及んでいき、男は狩りや治安維持に、女は洗濯炊事など家事を担い、集団内における役割分担、ルールが制定されていく。

不測の事態が起きたときには、「最大多数の最大幸福」(the greatest happiness of the greatest number)など功利主義における基本ルールを参照したり、民主主義の規則に即して集団で決議を行う。
一時は、リーダーのリックが多数決による民主主義を斥け、彼の独断で決定を下していくというルールを採用していたものの、最終的には再び集団決定へと回帰する。



その他にも、他グループとの縄張り争いや領土を画定し、不可侵条約を結ぶことで休戦を図ろうとするも、けっきょくは戦争に突入したりなど、人類がこれまで辿ってきた途を追体験するかのごとく、ストーリーが展開していく。
リックらが置かれた状況を覗き込むと、上で触れた政治思想や法学の基底となっている考え方が、所与のものとして私たちの社会に埋め込まれているのがよく分かる。
災害時やテロに襲われたとき、そういったものに対する脆弱性を常に忘れてはいけないと考えさせられる。
リヴァイアサンという巨人は歴史の俊才たちが地道に、少しずつ積み上げてきた叡智の結晶なのだということが、血みどろの闘争から浮かび上がってくる。

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家族も友人も死に絶え、希望も打ち砕かれた絶望の中で「なぜ生き続けるのか」という問いにぶち当たる登場人物たち。
ここでふと今、読んでいる『もっとも美しい数学 ゲーム理論』という本の中で、ゲーム理論と生物学という二つの学問分野を統合したときに見えてくる"人類"という一つの巨人の姿が頭に浮かびました。
ちょっとわかりにくいので補足しておくと、たしかに一人一人の人間には寿命があり、有限なのですが、自分の命は先祖から受け継がれた血、自分のあとに続いていく血、と連綿と命自体は生き続けてきたし、生き続けていくとなると"死"というものはないという結論に至るのです。ではなぜ最初から死ぬことなき一個の人ではないかといえば、隕石や大洪水、大地震などのカタストロフィが起きた時にも、リスクを分散しておくためではないか。とにかく、色々なファクターがある中で導き出された形態がこの「人間」なのではないかということです。

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この本は生物学、社会学、経済学、ひいては人類や世界が抱える多くの謎を解く鍵として「ゲーム理論」があるのではないかという野心的な本で、上に書いた人類についてまわる「戦争」に関して【「抜け駆け」と「協力」の人類史】という項に面白い記述があったので引用しておきたいと思います。
ただし、「常に協力する」というのは、安定した戦術ではない。全員が協力しはじめたとたん、ちょうど、鳩のなかの鷹のように、「常に抜け駆け」戦術が割り込んできて鳩を一掃する可能性がある。というわけで、まず、全面的な出し抜き戦略からはじめて、オウム返し作戦に移り、さらに寛大なオウム返し作戦へと移行して、そこから「常に協力」作戦に転じて、再び「全面抜け駆け」戦略へと戻る。『これが人類の歴史における、戦争と平和の理論なのだ
さらに驚くべきことに、この本の中でとうの「リヴァイアサン」についても記述があるのです。
ホッブズは『リヴァイアサン』の中で、さまざまな個人の選好がどのように相互作用するかを評価し、何が全員にとって最良の取引を成立させるかもっとも良い方法を考えるというアプローチをとる。サイエンス・ライターのフィリップ・ボールによると、こうして得られた理論上の枠組みは、各人の力を最大にするようなナッシュ均衡へと「さして苦労もなく作り直せる」という。したがってホッブズの『リヴァイアサン』は、社会を数学的に理解しようとする初期の努力と見ることができ、さらに、数学的なツールとしてはゲーム理論のようなものがふさわしいことを、予言しているとも言えるのだ、という箇所。
※「ナッシュ均衡」とはプレイヤー全員が互いに最適の戦略を選択し、これ以上自らの戦略を変更する動機がない安定的な状態(均衡状態)になるような戦略の組み合わせのこと。

「ウッドベリー」という70〜80人から構成される仮村落にいるミルトンという男。
彼はウォーカー(ゾンビ)の習性や身体的特徴などを研究しており、とくに死に絶え、ウォーカーになったあとも生前の記憶や感情が残存するのかに関心を置く。
これなども植物人間や脳死状態の人の人権やインフォームドコンセントなどじつは現代にも通底する話でもある。
まったくなくもない話でいうと、狂牛病や鳥インフルエンザなど(詳細は存じませんが)仮にこういった不治の病でかつ、人を凶暴化させる病気があったとして、その人の処遇をどうするか。

アメリカ・ドラマをある一定数観ると、どうしてもくだらぬ妄想をしています。
こういった危機的状況にある中で、グループメンバーのオールスターを考えてしまうのです。
それこそ各ドラマの主人公から構成されるクルーでいれば、かなり強いグループになるんじゃないかと。
  • 『24』からジャック・バウアー。(絶対死なない不死身、拷問直後でもピンピンしている恐るべき体力、一体何か国語話せるのか未だに不明のマルチリンガル、運転できない乗り物はない、特殊部隊にいたので殺傷能力がとても高い、一瞬の判断力・動物的勘の鋭さ...etc)
  • 『プリズン・ブレイク』からマイケル。(IQが変態なほど高い。建築技師。抜け出せない状況がない、どんな苦境でも最適解を導き出す)
  • 『LOST』からジャック・シェパード。(医者。医術はサバイバル環境にあってはもっとも役立つものの一つ。正義感に厚い、信頼できる。ただし、情緒不安定になることがあるので、そのときは要注意)
  • 『ウォーキング・デッド』からはリック。保安官なので銃の扱いに慣れてる。あとは例に漏れずこちらも正義感に溢れる。
と他の登場人物たちも考えていくとキリがないので、この辺でやめますが、主人公は間違いなく正義感が強い、リーダーシップ旺盛な白人男性という共通項がありますね。

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【前回の「ウォーキング・デッド」の話題】⇒ 中島らもと「ウォーキング・デッド」

2013年2月21日木曜日

映画『マネーボール』ベネット・ミラー監督作 '11


アスレチックス奇跡の快進撃を描いた実話に基づく物語。
アスレチックスが自由に使える予算(budget)はヤンキースの約1/3。日本でいえば巨人と広島のようなもの。
「ヤンキースを真似ても勝てない」「金がモノを言う球界に一石を投じたいと」球団の改革に乗り出すGMのビリー・ビーン。
感情やバイアスにとらわれない統計データを客観的に用いた"セイバーメトリクス"でチーム編成を断行することを決意する。

そこで、まず彼はイェール大を経済学の学位で卒業したピーターをインディアンスから参謀として引き抜く。
ピーターもビリーと同様に現在の球界の在り方に疑問を抱いていた。
(ピーターを演じるのはジョナ・ヒル。『40歳の童貞男』に出てました)


彼もセイバーメトリクスの理論に沿い、理論・数式を用いて最適な数字をはじき出し、低予算で獲得可能な選手、放出すべき選手を選出していく。
(前年にジオンビー、デーモンなど有力選手を失っていた)
カジノのブラックジャックのでカウントができれば、勝率がグンとあがるように数字・統計がモノをいうというのです。


(統計といえば、Gunosyチームが参考になる記事をあげていました。ちなみにこの中に『マネーボール』が含まれています)

ロードマップは描けたものの、いざプランを敢行しようとすると様々な障壁にぶち当たる。
スカウト、監督をはじめ多くのチーム関係者から、プランをなじられ、嘲笑され、はねつけられる。

それでも彼は己の信念を貫き通し、次々と改革を断行していく。
(彼もスタンフォードの奨学金付進学を蹴って、ドラフト一位でメッツに入団したプロ選手だったが、芽は出ずにスカウト、そしてGMになったという経緯がある)
ドラ一でも結果がなかなか出ずに沈んでいく選手というのは枚挙に暇がない。
パッと思いつくだけでも西武の菊池雄星、巨人の辻内崇伸、楽天の一場靖弘などなど。


去年の大谷にしても、メジャーかプロか、はたまた進学か。その時の決断がその後の人生を大いに規定する。
大谷を口説き落とした交渉時の資料を球団が異例の公開をしていましたが、見る限り誠意と熱意が伝わってきます。これを見せられたらさすがにグラつきますね。

今作でもGM間の交渉裏がありありと描かれています。
野球好きなら1.5倍たのしめると思います。

開幕当初は監督との思惑のスレ違いもあり、望むようなラインナップで臨戦できずに負けを重ねてしまいます。
ところがシーズンも終盤に差し掛かると、チームは勝ち星を積み上げていき、ついには20連勝というア・リーグ記録を樹立します。
20連勝を決めた試合でも、肘を故障し球界から干されかけていたハッテンバーグという選手がホームランを放ち勝利をもぎとりました。
(この試合は大変にドラマティックな展開で11点差を追いつかれながらも、最後はサヨナラホームランで勝ち切るのです)

印象的だった言葉は
勝ちたい以上に、負けたくない
野球はプロセスとプロセスとプロセスから成る 

快進撃をみせたアスレチックスでしたが、ここぞというプレーオフでは勝ち切れませんでした。ここに「数字」の限界があると思うのです。
プレーオフといえば正念場で、選手の間のプレッシャーもいつもとは比にならない。
統計ではすくい取れない予測不可能性が生じるのです。

それにしてもブラピ良い体してますね。。
欲を言えば、この実話を確実に忠実に再現しようとすれば、あと一時間くらいは必要になってくるかと。


完全主観採点:★★★☆☆

2012年11月12日月曜日

読書『複雑性と国際政治―相互連関と意図されざる結果』ロバート・ジャービス著


コロンビア大学のロバート・ジャービス教授の『複雑性と国際政治』を読みました。本著でアメリカ政治学会心理部門年間最優秀賞を受賞したのち、アメリカ政治学会の会長に就任なさっています。

アメリカ留学中に国際政治理論の授業でテキストとして何冊か読んでいたのですが、今回日本語で読んだのははじめてです。

ジャービス教授といえば、政治学に心理学的アプローチを取り入れ、開拓したことで有名で、本著ではさらにその傾向を強めより分野横断的なメソドロジーが採られています。

今著を書くためのインスピレーションを与えた書物として、大きく三冊あげています。
ぼくも二年くらい前にはじめて読んだケネス・ウォルツの『国際政治の理論』とモートン・カプランの『国際政治におけるシステムとプロセス』、そしてトマス・シェリングの『紛争の戦略』。


<日本語版に寄せて>でもこう書かれているように
特殊化にともなう必要な専門的知識が欠落している表面的あるいは大衆的な社会科学にしばしばむっとする。
あまりにも分化しすぎた現代研究の在り方に一石投じるというモチベーションで生物学・物理学・心理学など、分野を縦横無尽に駆け巡りながら本著はダイナミックに国際政治の動態を描写します。 

いくつか気になった点を...
変数が非線形的に相互作用するときは、あいにく変化がゆるやかなものではない可能性がある。むしろ、長期間何も異常はないかのように見え、そのあと突然の崩壊や変形に見舞われることがある。
「自然淘汰」の本当の意味として...
普通、私たちは、個体や種がそのような環境の中で競い合い、自然淘汰によって進化すると考える。しかしながら、実際のところは、生物と環境は共に進化する。植物や動物は環境に適応するだけでなく、環境を変えていく。 
 ドイッチェ、シンガーがいうところの「安定」とは...
安定というものは...システム全体とそれを構成している個々の国家という視点から考慮されるべきものである。広範なまたはシステミックな観点からはじめて"安定"というものが定義できる。それはシステムが必要な条件を備えていることによって生じる確実性ということである。それらの条件とは、一極覇権体制でないこと、システムを構成する国家の大部分が生き残ること、大規模な戦争が起きないことである。そして、各々の国家という、より狭い観点からすると、"安定"というのは、"存亡を懸けた戦争"をするような重大な局面を迎えることなしに、政治的独立と領土的保全が確実化されるということである。 
負のフィードバックの一例として...
アメリカが自国への麻薬流入を禁止する努力が成功すればするほど、麻薬の値段は上がり、薬物使用者が他の不法物質に頼るようになって、新しい産地や企業家が市場に惹きつけられるだろう。 
三者関係...
三つの国がシステムを構成する場合、副次的影響が行動の即時的・直接的効果を支配しやすい。しばしばパワーは、軍事的・経済的強さではなく、潜在的な敵対国が互いに対立している状況にあること、もしくはそのような状況を作ることから生じる。国家が他国を懐柔する必要があるかどうかは、各々の国家が他国に対抗するための支援を必要とする程度によって決まることが多い。 
構造の影響...
国家が同盟国に対してもつ交渉力は、個々の支援のニーズ、可能な他の選択肢、脆弱性によって決まる。脆弱性は、支援額を上げ、支援がない場合の同盟離脱の脅しに信頼性を与える。多極世界では、同盟から恩恵を受け、同盟の解体で損害を受ける国家は、より多くの選択肢をもっている同盟国か、あまりに弱いため好ましい政策をとる同盟しか支持できない同盟国から利用され得る。二極世界では、ウォルツとスナイダーが説明したように、超大国が小さな同盟国をそれほど必要とせず、小国によって望まない紛争に巻き込まれることがない。しかし、ニーズ、脆弱性、他の選択肢という同じ要因が、同盟国のさまざまな影響力の多くを決定している。 
政策の自己破滅性...
多くの政策はそれ自体が自己破滅的である。というのも、政策とは(本来)効果的な行動に至る関連経路に(人びと)向かわせていくものだが、(ときとして)それは第三者に情報を提供し、それに乗じて彼らがうまい汁を吸うのを可能にしてしまうことがあるからだ。
むすびに...
 システミックなプロセスを考慮しないかぎり、社会的・政治的生活で意味をなすものはほとんどない。システミックなプロセスを探求することによって、物事の理解と効果的行為に結びつく、新たな可能性を発見できるのであろう。言い換えれば、システムというものを理解しなければ、われわれは大きな混乱と苦しみを味わう可能性があるのである。
アクターに対して、システム・パースペクティブは、しっかりしたガイダンスではなく、世界を見る見方、警告のセット、考えなければならないいくつかのことを提供する。 
ゲーム理論のレンズから国際政治を覗き込んでみたとき、外交・紛争が、それこそ本当に「ゲーム」なのではないかと一瞬思う。権力・国益をめぐり、相手を出し抜くだけのゼロサム・ゲーム。
しかし、沈思黙考してみると事態はそれほど単純ではなく、人間の理性を越えた不合理性、戦略の裏の裏を読む心理的相克、表面だけでは理解できない深層でうごめく国際政治の魑魅魍魎が跋扈するのに気付かされる。
本を読めば読むほど、勉強をすればするほど、その渦中にからめ捕られていくように。