Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer

2014年5月15日木曜日

「ウォーキング・デッド」に棲みつくリヴァイアサン


先日、「ウォーキング・デッド」をみ始めたよっていうブログを書いてから、もうシーズン3を観終えてしまいました。
もうね、抜群におもしろい。
シーズンを重ねるごとにおもしろさが加速していくドラマはそう多くないと思う。

なにが面白いかというと、人間の本源的な動物性・社会性がうまく描かれているからだと思う。
社会を失い、無秩序状態に突入すると、法律という人工的な制御装置が外れて、適者生存(survival of the fittest)が至上命令というか、唯一のルールに君臨してくる。
これはホッブズがいうところの自然状態(state of nature)に近く、そこから「万人の万人に対する闘争」(the war of all against all)的世界観が趨勢をなしていく。
それでも微かな理性は保持しながら、個人というより、グループの保存をいかに維持できるかに考えが及んでいき、男は狩りや治安維持に、女は洗濯炊事など家事を担い、集団内における役割分担、ルールが制定されていく。

不測の事態が起きたときには、「最大多数の最大幸福」(the greatest happiness of the greatest number)など功利主義における基本ルールを参照したり、民主主義の規則に即して集団で決議を行う。
一時は、リーダーのリックが多数決による民主主義を斥け、彼の独断で決定を下していくというルールを採用していたものの、最終的には再び集団決定へと回帰する。



その他にも、他グループとの縄張り争いや領土を画定し、不可侵条約を結ぶことで休戦を図ろうとするも、けっきょくは戦争に突入したりなど、人類がこれまで辿ってきた途を追体験するかのごとく、ストーリーが展開していく。
リックらが置かれた状況を覗き込むと、上で触れた政治思想や法学の基底となっている考え方が、所与のものとして私たちの社会に埋め込まれているのがよく分かる。
災害時やテロに襲われたとき、そういったものに対する脆弱性を常に忘れてはいけないと考えさせられる。
リヴァイアサンという巨人は歴史の俊才たちが地道に、少しずつ積み上げてきた叡智の結晶なのだということが、血みどろの闘争から浮かび上がってくる。

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家族も友人も死に絶え、希望も打ち砕かれた絶望の中で「なぜ生き続けるのか」という問いにぶち当たる登場人物たち。
ここでふと今、読んでいる『もっとも美しい数学 ゲーム理論』という本の中で、ゲーム理論と生物学という二つの学問分野を統合したときに見えてくる"人類"という一つの巨人の姿が頭に浮かびました。
ちょっとわかりにくいので補足しておくと、たしかに一人一人の人間には寿命があり、有限なのですが、自分の命は先祖から受け継がれた血、自分のあとに続いていく血、と連綿と命自体は生き続けてきたし、生き続けていくとなると"死"というものはないという結論に至るのです。ではなぜ最初から死ぬことなき一個の人ではないかといえば、隕石や大洪水、大地震などのカタストロフィが起きた時にも、リスクを分散しておくためではないか。とにかく、色々なファクターがある中で導き出された形態がこの「人間」なのではないかということです。

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この本は生物学、社会学、経済学、ひいては人類や世界が抱える多くの謎を解く鍵として「ゲーム理論」があるのではないかという野心的な本で、上に書いた人類についてまわる「戦争」に関して【「抜け駆け」と「協力」の人類史】という項に面白い記述があったので引用しておきたいと思います。
ただし、「常に協力する」というのは、安定した戦術ではない。全員が協力しはじめたとたん、ちょうど、鳩のなかの鷹のように、「常に抜け駆け」戦術が割り込んできて鳩を一掃する可能性がある。というわけで、まず、全面的な出し抜き戦略からはじめて、オウム返し作戦に移り、さらに寛大なオウム返し作戦へと移行して、そこから「常に協力」作戦に転じて、再び「全面抜け駆け」戦略へと戻る。『これが人類の歴史における、戦争と平和の理論なのだ
さらに驚くべきことに、この本の中でとうの「リヴァイアサン」についても記述があるのです。
ホッブズは『リヴァイアサン』の中で、さまざまな個人の選好がどのように相互作用するかを評価し、何が全員にとって最良の取引を成立させるかもっとも良い方法を考えるというアプローチをとる。サイエンス・ライターのフィリップ・ボールによると、こうして得られた理論上の枠組みは、各人の力を最大にするようなナッシュ均衡へと「さして苦労もなく作り直せる」という。したがってホッブズの『リヴァイアサン』は、社会を数学的に理解しようとする初期の努力と見ることができ、さらに、数学的なツールとしてはゲーム理論のようなものがふさわしいことを、予言しているとも言えるのだ、という箇所。
※「ナッシュ均衡」とはプレイヤー全員が互いに最適の戦略を選択し、これ以上自らの戦略を変更する動機がない安定的な状態(均衡状態)になるような戦略の組み合わせのこと。

「ウッドベリー」という70〜80人から構成される仮村落にいるミルトンという男。
彼はウォーカー(ゾンビ)の習性や身体的特徴などを研究しており、とくに死に絶え、ウォーカーになったあとも生前の記憶や感情が残存するのかに関心を置く。
これなども植物人間や脳死状態の人の人権やインフォームドコンセントなどじつは現代にも通底する話でもある。
まったくなくもない話でいうと、狂牛病や鳥インフルエンザなど(詳細は存じませんが)仮にこういった不治の病でかつ、人を凶暴化させる病気があったとして、その人の処遇をどうするか。

アメリカ・ドラマをある一定数観ると、どうしてもくだらぬ妄想をしています。
こういった危機的状況にある中で、グループメンバーのオールスターを考えてしまうのです。
それこそ各ドラマの主人公から構成されるクルーでいれば、かなり強いグループになるんじゃないかと。
  • 『24』からジャック・バウアー。(絶対死なない不死身、拷問直後でもピンピンしている恐るべき体力、一体何か国語話せるのか未だに不明のマルチリンガル、運転できない乗り物はない、特殊部隊にいたので殺傷能力がとても高い、一瞬の判断力・動物的勘の鋭さ...etc)
  • 『プリズン・ブレイク』からマイケル。(IQが変態なほど高い。建築技師。抜け出せない状況がない、どんな苦境でも最適解を導き出す)
  • 『LOST』からジャック・シェパード。(医者。医術はサバイバル環境にあってはもっとも役立つものの一つ。正義感に厚い、信頼できる。ただし、情緒不安定になることがあるので、そのときは要注意)
  • 『ウォーキング・デッド』からはリック。保安官なので銃の扱いに慣れてる。あとは例に漏れずこちらも正義感に溢れる。
と他の登場人物たちも考えていくとキリがないので、この辺でやめますが、主人公は間違いなく正義感が強い、リーダーシップ旺盛な白人男性という共通項がありますね。

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【前回の「ウォーキング・デッド」の話題】⇒ 中島らもと「ウォーキング・デッド」

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