ひさしぶりにガッツリ政治学系の本を読みました。
フランシス・フクヤマといえば、何と言っても『歴史の終わり』が著名ですが、本著は米紙上では「歴史の始まり」と評されたそうです。
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上下巻構成でなかなかボリューミーな一冊なのですが、扱う範囲が人類の政治制度の起源(ユニークなのはそれを中国の秦の始皇帝に設定していること)からフランス革命までの発展なのです。
ということで、『政治の秩序と衰退』(仮)という続編に続いていくそう。
とまあかなりの気合で、彼のもちうる最大の知的リソースを総動員して、通史的かつ学際的に「政治の起源」を解き明かそうとした意欲作ということになるのかと思います。
政治学に限らず、進化生物学や社会心理学などあらゆる学問分野を渉猟しながら、一つの命題へと向かっていく姿勢はどちらかというとビッグ・ヒストリーの泰斗ジャレド・ダイアモンド(たとえば『昨日までの世界』)のようでもありながら、やはり重心は政治学・政治思想にあるので、多少なりとも前提知識が求められます。(この本でフクヤマが叩き台にしてるのはサミュエル・ハンチントンの『変革期社会の政治秩序』)
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あえて事前に読んでとよさそうな新書本をあげるなら、福田欽一さん『近代の政治思想』とE・H・カー『歴史とは何か』でしょうか。どちらも岩波です。
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歴史とは何か E.H. カー,E.H. Carr,清水 幾太郎 岩波書店 売り上げランキング : 6418 Amazonで詳しく見る |
『歴史の終わり』からずっとフクヤマが語り続けてる規範についての話でもあるのですが、政治制度発展の基礎として4点挙げています。
- 「包括適応度」や「血縁選択」、互恵的利他行動は、社会性の基礎的形態である。よほどのことがないかぎり、人はみな親族を大切にし、互いを助け合った友人に対して好感を抱く傾向がある。
- 人間には抽象化能力があり、因果関係についての思考パターンをつくり出して、理論化する能力もある。さらに因果関係を目に見えない超越的な力に基づくと想定する傾向もある。これが信仰の基礎となり、信仰は社会的団結をつくる源として重要な役割を果たす。
- 人間には、理性よりも感情に基づいて規範を守ろうとする傾向があり、その結果、ある思考パターンと、それにともなって生まれる慣習に、それ自体の内在的な価値があると見る傾向が生まれる。
- 人は、「相互主観的」な承認を求める。それぞれの価値、それぞれの神々、慣習、生き方を承認してほしいと望む。承認を得れば、それが正統性の基礎となり、正統性によって政治的権威を行使できるようになる。
往々にして学者によって語られる世界史は欧米視点に偏りがちなのですが、今著ではギリシャ、ローマといった鉄板はもちろんのこと、中国や日本などのアジア、そしてインドやハンガリー、中南米、はたまたアフリカまで射程がほぼ全方位に及んでいます。
安易な一般化は避け、地域ごとの文化的特質なども斟酌しながら、それでも政治的な理論を導き出そうとする怜悧な観察眼と途方も無い知的作業。
そこから一応、導き出された政治制度を形成する3つの要因が、
- 強力で有能な国家
- 「法の支配」への国家の服従
- 全市民に対する政府の説明責任
そして収斂されたこれらの主要素にもさらに種々のサブ要素が複合的に絡まり合っています。
たとえば一般的な通説を鵜呑みにしないためにも、彼のこの言葉を引用しておきたいと思います。
近代化の諸々の要素はどれも、宗教改革、啓蒙思想、産業革命の一括パッケージの結果、生まれたものではない。独立都市や商取引の急速な発展が近代的な商法の発達を促したにしろ、法の支配はそもそも、経済ではなく宗教的な影響の産物である。したがって、経済の近代化に不可欠となる2つの基本制度―個人が社会的関係や所有権について選択の自由を持つ。政治支配が透明で予測可能な法に制限される―は、近代以前の制度、すなわち中世の教会によってつくられたのだった。これらの基本制度が経済分野にとって有効と分かるのは、もっとずっと後になってからである。とまあ続編を待ちつつ、僕が個人的に嬉しかったのは訳者あとがきの最後の謝辞の部分で訳出を一緒に手伝ってくれた人の名前が挙げられていたのですが、その中で学生時代に授業を受けていた島田直幸先生の名前があったことです。
一年生のときに先生の「米洲圏概論」という講義を受け、それからアメリカ外交、ひいては国際政治への興味を持つキッカケになったのでした。
今は杏林大学で専任講師をなさってるとのことです。
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