Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer

2013年2月15日金曜日

映画『それでもボクはやってない』周防正行監督作


Huluにて鑑賞。最近、めまぐるしく忙しい生活を送っていて、なかなか本を読んだり自由な時間を確保できずにいるのですが、唯一寝る前にHuluで一本映画を観るのが習慣となりつつあります。
たまたまですが、今作の前夜に観た『エリン・ブロコビッチ』という映画も訴訟関連でした。

以前から友達に勧められていた今作。

痴漢の冤罪と闘う主人公。
やってはいなくてもとりあえず認め、示談を成立させれば長い長い拘留や裁判から逃れられる。
ただ「それでもボクはやっていない(I just didn't do it)」という題からも推し量れるように、主人公は徹底して無罪を主張していくことになります。

そういえばファンモンのの歌詞に
満員電車のバンザイはギブアップじゃない冤罪対策。
ってありますね。

映画の冒頭で流れるこの言葉。
十人の真犯人を逃すとも、一人の無辜を罰するなかれ。
 ただ、今の司法制度でこのような理想的な理念は達成できません。これは確実に。

有名な警察の断定的かつ圧迫的な取り調べ。
起訴し有罪に追い込むことだけを主眼に問い詰める検察。
そして最後の頼みの綱である裁判官たちも有罪に引き寄せられていく。
無罪判決を出すのは、相当な勇気が入ります。

三権分立のようで、実はどの立場であっても推定無罪ならぬ「推定有罪」に引き込まれてしまうのが現下の法体制です。
広義で捉えるなら、村上春樹がいうところの「システム」と通底しているのではないでしょうか。
エルサレム賞を受賞したときの彼の「壁と卵」のスピーチを覚えている方も多いと思います。一部抜粋してみます。



こんなふうに考えてみてください。私たちのそれぞれが、多かれ少なかれ、1個の卵なのだと。私たちのそれぞれは、脆い殻の中に閉じ込められた、ユニークでかけがえのない魂です。これは、私にとっても当てはまりますし、皆さん方のそれぞれにとってもあてはまります。そして、私たちそれぞれは、程度の差こそあれ、高く堅い壁に直面しているのです。壁には名前があります。「システム」です。システムは、私たちを守るべきものです。しかし、時には、それ自身が生命を帯び、私たちを殺し、私たちに他者を殺させることがあります。冷たく、効率的に、システマティックに。参考
本来、被告人を弁護するはずの当番弁護士でさえ、まっさきに示談を提示していました。

背筋がゾッとする話です。
ある意味で、(特に男性にとっては)どんなホラー映画よりも怖いストーリーなのではないでしょうか。

エンディングで、主人公が心の中で呟く一言。
この裁判で、本当に裁くことができる人間は、僕しかいない。少なくとも僕は、裁判官を裁くことができる。あなたは間違いを犯した。
 ぜひ全男性にオススメしたい。彼の(冤罪となった)疑似体験を自己の中に持っておけば、ある意味保険の役割を果たすと思うんです。
法律、司法、検察、弁護の知識が付きます。
疑似体験を積めることこそ、映画の大きな魅力の一つだと思うのです。
ただ観た夜は、ナイトメアにうなされないか本気で心配しましたが...。笑
加瀬亮は今作も抜群ですが、個人的にMVPは弁護士役を演じた役所広司さん。



ちょっと関係ないのですが、「司法試験に受からないということ」というおもしろいエントリーがありました。
早稲田や慶應の法学部を出ても、試験でコケれば30代、40代で派遣社員というオチという驚愕の実態が実体験と共に書かれています。時間がある方はぜひ一読を。



完全主観採点:★★★★☆

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