Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer

2015年7月31日金曜日

読書『きみはポラリス』三浦しをん著


『舟を編む』以来だったか、三浦しをん先生の本を読む。
恋愛もののアンソロジー。
きっとど直球の恋愛ものは受け付けないのだけど、そこはさすが三浦先生。
広い読者に読ませる捻りのあるプロットは物語の書き手にとっては大いに勉強になるのではないか。
個人的には「森を歩く」が一番ツボでした。
彼氏の素性を特に気にとめることもなく1年以上も過ごして、ドラッグディーラーかと思いきや、実はプラント・ハンターだったりする。
悲しいわけでも、ハッピーエンディングでも、なんとなくふんわりとした終わり方が新しくて良かった。

きみはポラリス (新潮文庫)きみはポラリス (新潮文庫)
三浦 しをん

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2015年7月28日火曜日

読書『群像の時代 動きはじめたメディアコンテンツ』志村一隆著


明日のメディア』などでも知られる志村一隆さんの新著を読みました。
先日、下北沢B&Bで行われた今著の記念出版イベントに取材で行き、店頭で買いました。

マスメディアからソーシャルへというよく言われる大局的なメディア論のシフトは抑えながら、アドテク、人工知能、ゲーミフィケーションなどなど周辺領域などの各論をも網羅しつつ、次のメディアの行く末を占った本。
高城剛さんじゃないですが、志村さんも数年の間に多くの国を旅し、そこで得られた最新の海外メディア事情の知見もふんだんに詰め込まれている。
この本の要約的ハイライトとしては以下のような節でしょうか。

コンテンツビジネスの要諦は、著作権とコピー技術の独占だった。スマホなどのデジタル・テクノロジーが、その独占を民主化する。(10頁)
コンテンツとしての高価な映像とコミュニケーションのツールとして使われる安価な映像が入り交じる群像の時代。「悪貨は良貨を駆逐する」ではないが、量で凌駕する安価な映像は、映像がコンテンツとしてしか存在し得なかった時代にできた映像文法を変化させるだろう。(165頁)
20世紀は映像の世紀であるとは先人の言葉。21世紀は群像の世紀である。(166頁) 
群像の時代 動きはじめたメディアコンテンツ群像の時代 動きはじめたメディアコンテンツ
志村 一隆

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2015年7月23日木曜日

読書『断片的なものの社会学』岸政彦著


昨日、二子玉川の蔦屋で購入した本を読了。
「社会学」とタイトルにありますが、内容は断想が連ねられたエッセイに近い。
この本は何も教えてくれない。ただ深く豊かに惑うだけだ。そしてずっと、黙ってそばにいてくれる。小石や犬のように。私はこの本を必要としている。(星野智幸)
と帯にあるように、この本では社会学的になにかを追求したり、実証的に証明したりするのではなく、”分析されざるものたち”を取り上げ、あったかもしれない未来を重ねながら、筆者の岸さんが優しい筆致で思いを馳せていく。

帯の裏側に書いてあった文章が全てを要約してくれているので引用。
どんな人でもいろいろな「語り」をその内側に持っていて、その平凡さや普通さ、その「何事もなさ」に触れるだけで、胸をかきむしられるような気持ちになる。梅田の繁華街ですれちがう厖大な数の人びとが、それぞれに「何事ものない、普通の」物語を生きている。
どこかの学生によって書かれた「昼飯なう」のような つぶやきにこそ、ほんとうの美しさがある。[...]小石も、ブログも、犬の死も、すぐに私の解釈や理解をすり抜けてしまう。それらはただそこにある。[...]社会学者としては失格かもしれないが、いつかそうした「分析できないもの」ばかり集めた本を書きたいと思っていた。
断片的なものの社会学

2015年7月19日日曜日

読書『なんで水には色がないの?』五百田達成著


面識もある著述家・五百田達成さんの『なんで水には色がないの?』を読みました。
まだ未読なのですが、『察しない男 説明しない女 男に通じる話し方 女に伝わる話し方』が大ヒットされていますよね。
最近では『スッキリ!!』のコメンテーターもされてて、大活躍ですね。

この本では東大教養学部というバックグラウンドを遺憾無く発揮し、文理問わない「どうして水には色がないのか?」「なぜ宇宙には空気がないのか?」「眠くなるのはどうしてか?」など子供が自然に疑問を持ってしまうようなこと、(大人は当たり前として疑問視すら忘れてしまっていること)をピックアップ、優しい語り口で紐解いてくれます。
中学生くらいなら普通に読める内容ですし、大人にとっても知的好奇心が刺激される良書かと思います。

2015年7月18日土曜日

読書『イニシエーション・ラブ』乾くるみ著


「最後の二行が衝撃」と言われ続けていたので、注意して読んでいたつもりなのですが...。
最後の解説文があるため、「まだ終わらんだろう...」と思っていたら...オワリ!
「え、え」と15秒間戸惑う...。Aサイド・Bサイドで読んだプロットを繋ぎ合わせる。
「うおー!そういうことか」というアハ体験にも似たスパーク。
10人いたら8人は途中では気づかないんじゃないか。
物の見事に練り上げられた構成。とくに時代背景の描写が秀逸ですね。
筆者の実体験なのか、そうではないとしたら恋愛に相当コンプレックスを抱いていて、周りの恋愛を相当集中して観察したとしか思えない。
映画も観たい!です。

2015年7月14日火曜日

読書『旅のラゴス』筒井康隆著


テンポよく疾走感のあるプロットが読んでいて気持ちよかった。
『百年の孤独』のストーリーラインの骨子を”旅”に置き換え、極限まで冗長な部分は排除して、あっさりとさせたような。
ショートショートが数珠繋ぎのように続いていくようなストーリーなので、読んでいても飽きがこない。
かといって人物描写にひねりもないので、SFなようでいて、心象風景は現代にもありふれた普遍的な人間同士のやりとりだったりする。

2015年7月13日月曜日

読書『10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと』山口揚平著


大学院で同じ研究科の同期でもある、思想家・山口揚平さんの新著をサクッと読む。
普段からFacebookにポストしている慧眼溢れる断想を、ストーリーテリングでまとめ直したもの。
物語の流れ方はどことなく『ユダヤ人大富豪の教え』のようなところもありつつ、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』などでも一貫して述べられているように、貨幣経済から信用経済という専門である貨幣論のダイナミックな移り変わりが近著でも重要なエッセンスに。
ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣 (だいわ文庫)ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣 (だいわ文庫)
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なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?
山口 揚平

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時代のキーワードが散りばめられつつ、いま世界でなにが起こっているのかの肌感覚がつかめるので、広い読者にオススメな一冊ですね。
10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと 答えのない不安を自信に変える賢者の方法10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと 答えのない不安を自信に変える賢者の方法
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2015年7月11日土曜日

読書『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』武田砂鉄著


「cakes」や「Yahoo!ニュース」で名前を目にすると、ついつい読んでしまうWEBでは数えるくらいくらいしかいない、ライター名で記事を読んでしまう書き手の処女作。

たとえば「SEKAI NO OWARIは「中2病」ではなく「高3病」」のようにトレンドとなっている時事ネタを痛快に読み解き、一刀両断に斬りまくるのが気持ちいい。
本著ではちょっと肩に力が入りすぎたのか、伝えたいことに対して、言葉が変に力みすぎてて、読みにくい部分も散見されたが、それでも読みの深さと比喩やライティングテクニックはさすがの一言。
勉強になります。
この本で試みていることはおそらく一つで、あとがきから引用。
決まりきった言葉が、風邪薬の箱に明記されている効能・効果のように、あちこちで使われすぎている。どこまでも自由であるべき言葉を紋切型で拘束する害毒を穿り出してみたかった。言葉は人の動きや思考を仕切り直すために存在するべきで、信頼よりも打破のために使われるべきだと思う。誰からともなく処方箋が示されている言葉に縛り付けられるのではなく、むしろ覆すために、紋切型の言葉をああだこうだ解体してみようと思った。
紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす
武田 砂鉄

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2015年7月10日金曜日

読書『ジャイロスコープ』伊坂幸太郎著


電車移動用に伊坂幸太郎の文庫本『ジャイロスコープ』を読む。
彼の長編はかなり読んでいるけど、短編をまとまって読むのはあまりないので新鮮。
リズムよく伏線が回収されていくお得意のスタイルは短編でこそ真骨頂を発揮するのではないか。
そしてなにより見事なのは、作品横断的にプロットが絡み合い、登場人物たちが交錯していくストーリー。
巻頭にある「ジャイロスコープ【gyroscope】」の定義の最後、
回転するコマを三つの輪で支え、自由に向きを変えられるようにした装置。応用により、物体のずれや揺れを防ぐ。また、外力を加えるとコマ独特の意外な振る舞いをすることから、転じて、輪を同じにしながら各々が驚きと意外性に満ちた個性豊かな短編小説集を指す。 
いやはや、小説の醍醐味を全面に感じますね。
ジャイロスコープ (新潮文庫)ジャイロスコープ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎

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2015年7月9日木曜日

読書『愛と幻想のファシズム』(上・下)村上龍著

愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫) 愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)

お世話になっているメンターのような方にお薦めされて読んだ村上龍の『愛と幻想のファシズム』。
村上龍は当たり外れが激しいと個人的には思っていて、(たしか前回読んだのは『イン ザ・ミソスープ』か『イビサ』だった)
一方で、『五分後の世界』の世界や『半島を出よ』のような、渾身の力作もある。
今著は後者に属するもので、あとがきにも記してあったように、かなりの数の経済書を渉猟し、専門家にも取材を多数行っているのが物語を読み進めるだけでも理解できる。

この本を通貫するテーマは「狩猟(hunting)」と「革命」。
一介のハンターがカリスマ性だけでファシスト組織をゼロから組成し、日本、世界を相手に革命を起こしていく。

国際政治の力学(どこまでリアリティがあるかは措くにしても)もヴィヴィッドに描かれ、読み応えは抜群。
スタートアップの人たちこそ共感できるノリというか、「リソースが足りなくて」と嘆息をついている人こそ、一読の価値があると思う。
なにかうねりが生じるとき、元をたどれば、一人の人間の狂乱から生じた妄想と推進力だったりするということが分かる。

2015年7月5日日曜日

読書『何者』朝井リョウ著


新潮文庫の100冊」が今年もやってきました。サイトもいい感じです。
毎年、読了本の割合が増えていっている気がしますが、そういえば未読だった朝井リョウさんの『何者』を購入。
何者 (新潮文庫)何者 (新潮文庫)
朝井 リョウ

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当初はツイート文章が差し込まれていることに違和感がありましたが、読み進めていくにつれ得心。
この物語でツイッターをはじめとしたソーシャルメディアは決定的な役割を果たすからです。
これは新しい表現形式だな、と思いました。
就活の経験がある人ならば誰でも頷いてしまう場面がずっと続いていきます。
次は『スペードの3』あたりを読んでみようかと。

2015年7月2日木曜日

読書『ぼくは愛を証明しようと思う』藤沢数希著


メルマガ『週刊金融日記』でおなじみ藤沢数希さんのcakes連載が単行本化になった『ぼくは愛を証明しようと思う』を読了。(7割くらいはすでに連載の方で読んでいた内容だったかと思いますが)
ぼくは愛を証明しようと思う。ぼくは愛を証明しようと思う。
藤沢 数希

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連載から周りで読んでいる女友達が何人かいたんですよね。
女性からしたら、男のリアルな恋愛観が開陳された貴重な資料だったのかもしれません。

「モテ=ヒットレシオ×試行回数」という恋愛工学の根底にある方程式があるのですが、これってわりかしどんなことでも当てはまるのかなあと。
そう考えると、学問の違いはあれど、普遍性を抽出することは意外に容易に思えたりします。もともと恋愛工学が基礎にしているのは金融工学だったり、心理学だったりするわけで。

帯にも冒頭にも、元インテルCEOアンドリュー・グローブの
"Technology will always win."(最後にはいつだってテクノロジーが勝利する)
という言葉が使われているにもかかわらず、最後に待っている結末がなかなか爽快です。

2015年7月1日水曜日

読書『ラリルレ論』野田洋次郎著


今日までの世界を脱ぐのだ。
中学校の終わりから高校のはじめにかけて、貪るように聴いていたRADWIMPS。 
思えばラジオから流れてきた「25コ目の染色体」に衝撃を受けたのがはじまりだった。
そう、つまり彼らが高校を卒業し、ちょうどメジャーデビューするタイミングから聴き始めたということになる。
そして、発売されたサードアルバム。
RADWIMPS3~無人島に持っていき忘れた一枚~RADWIMPS3~無人島に持っていき忘れた一枚~
RADWIMPS

EMIミュージック・ジャパン
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このアルバムは今でもRADの最高傑作だと思っているし、「おとぎ」は何度聴いたか分からない。はじめて入ったスタジオで「最大公約数」を弾いたのも懐かしい。

立て続けに、エルレにもハマったのだけれど(音楽的には、当時のど真ん中のアーティストを聴いていた典型的な学生だった)野田さんと細美さんが使う英詞の意味を知りたい、という単純な動機もあって、英語だけは真面目に勉強した記憶がある。

思えば、(歌の歌詞はもちろん)野田さんの言葉はずっと追いかけていた気がする。
ガラケー時代の日記(おそらく、というか絶対今はもう閉鎖されていて見れない)も欠かさず見ていたし、5年前だったか、『papyrus』に掲載されたインドの放浪記も当然読んだ。

papyrus (パピルス) 2010年 04月号 [雑誌]papyrus (パピルス) 2010年 04月号 [雑誌]


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RADの音楽から離れてはいたけれど、こうして野田さんのまとまった文章を読むのはやっぱりグッとくるものがある。
この本を通読して、再び音楽を聴いてみると、中高生のときのような脳天を揺さぶられるような感覚は、残念だがもうない。
だけれど、ファーストの「心臓」を聴いて、蘇る、あのギュッと胸が締め付けられるような感情と、青森の雪道をバスで帰京していたときの情景がふわっと浮かんでくるから、音楽が記憶を喚起する力はすごい。

ラリルレ論ラリルレ論
野田 洋次郎

文藝春秋
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