Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer

2014年1月4日土曜日

読書『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』高橋昌一郎著


國學院大學教授・高橋昌一郎先生の講談社現代新書の「限界」シリーズ3冊を一気通読。
出版順序でいうと、「理性」→「知性」→「感性」ということになるのですが、僕が初めに手にとったのは『知性の限界―不可測性・不確実性・不可知性』でした。
読む順番はべつにランダムで構わないと思います。

1冊手に取ったら、続けざまに続編に触手を伸ばさざるをえないこと請負いです。

おそらく読者の知識量にも依るとは思うのですが、科学や哲学、自分のなかにバラバラに散逸していた知識の破片がパッチワークのように、滑らかに繋がっていく感覚。
継ぎ接ぎだらけで体系性の欠如した知識系に秩序がもたらされていく感覚。
知的好奇心の水平が一段階上がる感覚。
(小飼弾さんもそれぞれブログで紹介されてましたね⇒理性知性感性

あえてこの本の中に二項対立を持ち込むなら、広義の"科学"vs形而上学を含む哲学ということになると思います。
僕の読書遍歴からいっても、間違いなく自分は哲学よりの人間なので、自分の哲学・思想系の思索のストックを科学的見地から照らし返してみたときに、一気に視界が開けたというか、支え棒が取れたような気がしました。

以下では各書の中で印象に残った箇所や言葉を紹介しつつ、考えも拾い置きしておきます。

理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性
高橋昌一郎

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シリーズの初刊となる「理性」はおそらく3冊の中でも最も難度が高い内容ですが、それでも新書に相応しく専門外の人間でも読みやすい砕かれた文章となっています。
高橋先生の広範にわたる知識に瞠目するのはもちろん、良質なライターとしても稀有な科学者であることは間違いないと思われます。

いつだったかこんなツイートしてましたが、高橋昌一郎先生も間違いなくその一人でしょう。


アインシュタインのかの有名な「E=mc²」方程式に関して、あらためてこのごくごく短い式が世界、人類に与えた影響を再確認。
相対性理論は、時間と空間ばかりではなく、質量やエネルギーの概念も根本的に変革しました。アインシュタインの有名な方程式「E=mc²」は、物体の質量に光速度の二乗を掛けた結果がエネルギーと同等であることを示しています。原子力発電所では、ごく微量のウランの核分裂反応を利用して、膨大な原子力エネルギーを取り出しているわけですが、質量が膨大なエネルギーを秘めているという発想も、相対性理論に基づくものです。
科学や宗教、哲学、それぞれの領野の泰斗がぶち当たった理性という壁。
分野にとらわれずに多くの実例を上げてらっしゃるのですが、あえてパスカルの『パンセ』の引用だけひいておきます。
「理性の最後の一歩は、理性を超える事物が無限にあるということを認めること」
知性の限界 不可測性・不確実性・不可知性 (講談社現代新書)知性の限界 不可測性・不確実性・不可知性
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シリーズを通してゲーデルの不完全性定理、アロウの不可能性定理が重要なキーファクターとなっていきますが、むしろ脇道から矢を放っていくニヒリスティックなファイヤアーベントの視座が僕には響きました。
「方法論的アナーキズム」を唱道した彼がポパーの『果てしなき探求』に対置させて発表した『暇つぶし』はその極致だと思われます。


あとは誰しもが考えたことがあるであろう、決定論と自由意志論の議論。
僕も子供の頃から漠然と、だけどずっとしつこく考え続けてきたことです。
一級の科学者や哲学者が考えてきた蓄積を体系的に把握できたのは嬉しかった。
「目的論的証明」とインテリジェント・デザインに際して、18世紀のイギリスの神学者ウィリアム・ペイリーが草原で拾った腕時計、虫や植物を例に喩えながら考察した『盲目の時計職人』の話は誰もが一度は目を通し、沈思してみる価値のある論究ですよね。

とまあ徹底的に決定論について考えているところで、ノーベル賞を受賞した物理学者スティーヴン・ワインバーグのこの言葉をポッと紹介されちゃうわけです。
「宇宙が明確になるにつれ、宇宙に意味がないこともますます明確になってくる」
感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)
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現時点で最終刊となっている「感性」は前2著と比べ、若干趣向が異なります。
以前、科学的な見地から批判的視座を交えつつ考察していくのですが、議論の中核を占めるテーマが愛、自由、死などより根源的な形而上学的なトピックなのです。
そういう意味では読みやすく、読みにくいと言えるかもしれません。

個人的には「形而上学的反抗」を取り巻くカミュ=サルトル論争の項などにも新しい発見があったのですが、やはり最後はファイヤアーベントの科学への見方を紹介して閉じましょう。
「(科学は)最も新しく、最も攻撃的で、最も教条的な宗教的制度である」



【前回の読書の話題】⇒『ルールを変える思考法』川上量生著
1/23 追記
高橋昌一郎先生本人から返信が来ました。
やっぱりツイッターってすごい。
考えてみれば、ホリエモンも佐々木俊尚さんも大体反応してくれるし、過去にもジョブズの自伝読んだ時も訳者の井口耕史さんがお礼を言ってくれたり、"書評"はとりあえずやっておくと、著者や関係者が反応してくれるから書いた甲斐がありますね。

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