Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer

2013年12月21日土曜日

読書『マッキンゼー 世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密』ダフ・マクドナルド著


ことのほか最近、花盛りの"マッキンゼー"関連のビジネス書。
南場智子さんの『不格好経営』、戸塚隆将さんの『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』、伊賀泰代さんの『採用基準』など枚挙に暇がありません。

こうした、ビジネス書を賑わせている「マッキンゼー本」は2つの種類に大別できると思います。
①分析の仕方やプレゼンの方法、一流のビジネスマンとして備えておくべきマインドセットなど実践的なスキルを指南したもの
②マッキンゼーはいかなる組織か、内部環境などについて、実際の経験から。(内部者の声)

基本的に上記のどちらかに集約されるのですが、そんな中にあってこのダフ・マクドナルド氏による『マッキンゼー 世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密』は異彩を放っています。
カナダで名の知られたジャーナリストである氏が、外部者としてあらゆる側面から包括的に組織体としての"マッキンゼー"を描き出した本格的な本。

概して、内部の方が書いた本はどうしても好意的な筆致になりがちです。
純然たる秀才たちがしのぎを削る組織。そして、大企業を影から支え、正しき方向へ舵取りを行うブレーンたちというようなイメージ。

マクドナルド氏は批判的な視点から膨大な数の書籍やレポート、インタビューを通じて、包括的なマッキンゼー史を炙り出していきます。
もちろんマッキンゼーが打ち立てたビジネスにおけるパラダイムや、功績にも章を割いて論究していきますが、個人的な所感としてはやはりマッキンゼーの負の部分にメスを入れることに注力したのではないかと思われます。

3大スターの1人と称される大前研一氏

ただ個人的に刮目したというか、興味深く読めた箇所は「大前研一」さんに関する部分が多くの紙面を割いて言及されていたことです。

マッキンゼー史におけるコンサルタントの3大スターとして、トム・ピーターズ、ハーバート・ヘンツラーと並んで、大前さんも挙げられていました。
筆者がアメリカ人であることを勘案すると、客観的に大前さんがグローバルに評価されていることが分かります。

筆者は基本的に時系列にマッキンゼーの歩んだ軌跡をたどり、現在、そしてこれからへと筆致をズラしていくわけですが、60年〜70年代にもっともその影響力を伸大化させていたときのマッキンゼーを象徴する言明を引用します。
マッキンゼーを雇ったクライアントが、彼らにはその価値がなかったと明言することは、ほぼない。ある意味でマッキンゼーは、世界中で最も人気があると言われた20世紀初頭のパリの高級娼婦、"ラ・ベル"・オテロと似たような存在だ。カロリーナ・オテロは客をひどくえり好みし、2012年時点の貨幣に換算して100万ドル以上になる途方もない料金を要求した。客にはモナコ大公アルバート一世やセルビア王などがおり、資力のある者なら誰もが一度は付き合うべきだと広く言われていた。では、一度そうしたら、客は何と言うのだろうか。セックスするために100万ドル払ったとしたら、その金の価値がなかったなどと認めるわけがない。
こういったマッキンゼーに対する見方は今なお健在だと思われます。
ようはマッキンゼーが果たした換算されうる実際の貢献度とはべつに、世界で一流とされるコンサルタント集団をハイヤーしているというその事実だけで一種の満足感を覚えてしまうという構造です。

あるいは、マシュー・シチュワートはもっと踏み込んだ物言いで、こう言います。
戦略のアイデアはミネルヴァのフクロウのように、概して組織に黄昏が訪れたときに飛び立つ。古いことわざにあるように、戦略とは弾薬が切れかけても敵に悟られないようにすべての銃を撃ち続けることだ。一般的に、企業は別の方法でみずからの存在を正当化できないとき戦略に頼り、自分たちがどこへ向かっているかわかっていないときに計画を始める。
こちらも世界で広く膾炙したコンサルティング・ファームへの見方ですが、ようはリストラクチュアリングを円滑に行うための口実としてコンサルタントを雇うということに他なりません。



終始、徹底した批判的な眼差しでマッキンゼーを外在的・内在的にえぐり出していく、マクドナルド氏ですが、《終章 マッキンゼーはこれからも勝ち続けるか》の冒頭【もはや最高の就職先】という項でこう述べています。
マッキンゼーはライバルのどこよりも人に投資しているが、すぐれた人材にとっては単なる通過点になってしまうリスク、つまり若手をより刺激的なキャリアのために訓練するための場所になるおそれがある。
もともと会計事務所からはじまったマッキンゼーを鑑みた上で、最後に引用して締めます。
マーヴィン・バウワーは、マッキンゼーが信頼される地元銀行と同様に見られるようになることを望んでいた。しかし今日のマッキンゼーは、近所にある親しげな銀行よりも、むしろ全国規模あるいは世界規模の金融コングロマリットに似ている。いまやマッキンゼーは古めかしい大企業で、1960年代と1970年代に同社が助言していた巨大企業そっくりだ。そのクライアントが企業でも役員でも、仕事の相手は以前よりずっと大きくなった。コンサルタントが取り組むことになる問題は巨大だ。しかし同時に、いまのマッキンゼーは以前は軽蔑していた官僚機構への対応により多くの時間を費やしており、その外側ではなくより内側に入り込むようになっている。

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