Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer

2013年9月3日火曜日

自己啓発ドラマとしての「半沢直樹」


いやー、「半沢直樹」面白いです。
苦戦が続くTBSですが、「半沢直樹」はまさに絶好調で、今日のニュースでも先週分の放送が視聴率30%越えだったごとが話題となっていました。
原作は池井戸潤さん(@JunIkeido)の『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』ですが、単純にタイトルからだけ推察すると『ロスジェネの逆襲』が一番しっくり来るような気もします。
Amazonでも電子書籍化されてからトップページでゴリ押しされてました。

このまま順調に伸びれば最終回で視聴率40%越えもあるのではないかと囁かれていますが、当初はここまでの人気になるとは誰も予想できなかったのではないでしょうか。

人気の原因はいろいろあると思いますが、まずは一見地味なキャストですが、かなり周到に綿密に練られた顔ぶれ。
まず主演は堺雅人。ここにぶつける敵役の本丸が常務を演じる香川照之。(このタッグは映画『鍵泥棒のメソッド』以来。さっきTSUTAYAで借りてきました)
香川さんは本当に鉄板で、今回のドラマの役どころも映画『カイジ』で演じた利根川さながらの狡猾さと慈悲のなさ。まるで同一キャラクターのよう。


冒頭でロスジェネの逆襲』の逆襲がタイトル的にはもっともドラマの内容を反映しているのではないかという感想を書きました。このエントリーではこの点についてだけ、少し掘り下げてみようと思います。

このドラマ自体、小中高生、老若男女すべてのカテゴリーが楽しめるといった類のものではなく、職業や経歴によっても見方は変わってくると思います。(たとえば今日、藤沢数希さん(@kazu_fujisawa)の「半沢直樹の何が面白いかわからない」という記事を見かけました)
真っ当な意見だと思います。第一ドラマなんてそんなもんです。
だいたいにおいてその道の専門家からみれば絵空事であったり、大袈裟であったり、見るに堪えないものなのはある面でしょうがないと思います。(医療ものなんて大体そうじゃないでしょうか。そういえば『町医者ジャンボ!!』は放送開始当初、視聴率低迷だったものの、主演のMAKIDAIさんの大根役者っぷりが話題となり持ち直しているとの記事がありました。こういう棚ボタは現代ならでは)
そういう意味で銀行の内部にまったくの門外漢である自分は"あくまでドラマ"として大いに楽しんでいます。

一番、強烈にメッセージを受け取り食い入るように観ている世代はやはりロスジェネ世代なのではないかと。
閉塞した時代環境の中で書店では平積みされた「自己啓発」「スピリチュアル」本関連が飛ぶように売れるというのはよく聞く話で、アカデミズムでも牧野智和さんが『自己啓発の時代』という本を著しています。
先が見えない霧の中で、常に行動指針を求めてしまう。
この視点から「半沢直樹」を見ると、主人公の半沢直樹はまさにロスジェネ世代の閉塞感を打ち破るような希望のロールモデルのように映ります。



バブル時代の悪習や負の遺産が跋扈する「弱肉強食の出世競争」の中に自らの意志で飛び込みます。(その裏には幼少時代の決意があります)
融資した5億円の不渡りで生じた焦げ付きの全責任を支店長に押し付けられ、出向(バンカーにとっては"死の宣告")のギリギリの淵で格闘します。
揺るぎない信念だけが彼を前進させる原動力です。
多くの人が絡め取られてしまうであろう(一見個人ではどうにも打開できそうにない)組織の論理に果敢に立ち向かっていきます。

その中で一番、彼の武器たりえたのは先述の「信念」であることは間違いないと思います。それは父の自殺に結びつく「原体験」から紡ぎだされる自身が生きていることの意味。
もちろん独善的に遮二無二に自分一人でどうにかなる規模の相手ではなく、仲間の助けを必要とします。持ちうる人的リソースをソリューションのためにフル活用していくのです。たとえば上戸彩演じる妻の花。
常に夫思いで精神的支えであることを彼女自身自覚していて、なおかつ真の強い性格で決定的なピンチを何度か救います。
彼にとって大きいのは職場に敵が少ないこと。支店長ならびに副店長は支店で唯一と言っていい敵で、その他の部下、同期は心強い味方として常に全力で彼をバックアップします。とくに僕的にドツボなのはミッチーこと及川光博さん演じる渡真利。スマートでいて、どこかひょうきんな仲間思いのかけがえのない同期。統合失調症で苦しみ合いながらも、お互いに切磋琢磨しあう近藤。


半沢が頭の切れて行動力のある敏腕行員であることは疑いの余地はないですが、こういった仲間の存在がなければ問題解決なんてあり得なかったでしょう。
その裏には彼の圧倒的な人間力、言い換えれば「人望=信頼」が間違いなく伏在しています。(木村敏さんの『関係としての自己』読み返してみたくなりました)
邪悪な宿敵には眼光鋭く、牙を剥き、罵りますが、妻といるとき、仲間と談笑するとき、ふとした瞬間にみえるこれ以上ない優しい微笑みは視聴者の心をぐっと掴む最大の要因だと思います。これは半沢のキャラクターというよりも俳優・堺雅人に拠るところが大きいとは思いますが。(顔をほころばせて笑顔が出たとき『ツレがうつになりまして』堺さん演じる"ツレ"をどうしても想起してしまうのです)

いやー、日曜の第8回が非常にたのしみではありますが、ぼくは原作を買って読むよりも、堺雅人さんのドラマですこぶる評判の良い『リーガル・ハイ』をその間に観ておこうと思います。

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