Each day is a little life: every waking and rising a little birth, every fresh morning a little youth, every going to rest and sleep a little death. - Arthur Schopenhauer

2015年8月16日日曜日

読書『フラニーとズーイ』J・D・サリンジャー著

フラニーとズーイ (新潮文庫)

村上訳で『フラニーとズーイ』を読む。
ヘンリー・ミラー『北回帰線』にしろ、ギラギラした筆致で(おそらくハイな状態で?)一気呵成に書かれた文章というのは、読む度に発見がある。
フラリーの章はどこかしっとりとした上品な展開で物語が進んでいくのだけれど、ズーいに移った途端、ある意味猥雑なように、そして抽象度を上げながら物語は進行。
宗教、そして信仰のくだりでは『カラマーゾフの兄弟』のミーチャを想起してしまいました。

2015年8月8日土曜日

読書『火花』又吉直樹著


話題の著を読む。(TSUTAYAスタバで...)
(なんだかんだミーハー精神というか、こういう類の数年に一度ある有名人が書いてバズった本は読んでいる気が...。水嶋ヒロ『KAGEROU』然り)
KAGEROUKAGEROU
齋藤 智裕

ポプラ社
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えー、まず結論からいうと、断然(芥川賞をとっていることからも推察されるように)そりゃ『KAGEROU』よりは間違いなくクオリティは高いです。
それはもう語彙や筆致から数ページめくるだけで分かる。

先日放送されていた「情熱大陸」の芥川賞受賞までを密着した又吉さんの回でも強く感じたように、どこまでも内省的な性格が直球で主人公に投影(おそらく又吉さんご本人?)されていた気がします。
どちらかというと僕も思索的な人間なので、共感できる部分も。
評価が分かれているのは、誤解を恐れず単純にいえば、いわゆる暗い人には受けそうな本。
プロットの本筋とは関係ないかもですが、個人的に痛いほど分かって、思わずメモしてしまった言葉。
神谷さんの淀みなく流れるような喋りを聞いていると、自分が早く話せないことに苛立つ時があった。頭の中には膨大なイメージが渦巻いているのに、それを取り出そうとすると言葉は液体のように崩れ落ちて捉まえることが出来ない。
火花火花
又吉 直樹

文藝春秋
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読書『馬主の一分』マイケル・タバート著


馬主に関する書が少ない中、貴重な馬主本人が記した本。
当然、騎手や調教師とのリアルなやりとりや、人間関係で泥臭く動いている競馬界の実情もわかる。近年では少なくなってきたとはいえ、いわゆる庭先取引のことなど、新規で馬主になる人の苦労がもろもろ記されていたので刺激的でした。
なにより驚くべきは筆者のタバートさんがサラリーマンだということ。
ちょっと調べたらデロイトトーマツでパートナーということで、合点がいきましたが。
個人的に上記のような内容が書かれた箇所はもちろん楽しめたのに加え、馬主の馬券術という章も興味深かった。
例えばWIN5は2〜3レースを1頭に固定し、残りレースを全頭流し。
これはある程度のまとまった資本があることが前提ですが、三連単 にも当てはまることで、単勝一点で勝負するよりも、一着固定で全頭流しのほうが妙味は多いのではないかというのがタバート氏の持論です。
統計的にみたら単勝の方が期待値は高いのでしょうが、レース毎に見極めれれば、そこの溝は埋まっていくのではないでしょうか。
また、今著でも触れられていた「UPRO事件」ですが、以下の記事が参考になります。(『UPRO』はなぜ160億円も勝てたのか?
この記事の結論としては、「倍率に応じて掛け金を変え、全ての組み合わせの馬券を購入」ということらしいです。
部分的には同意です。
ようはお財布事情を勘案して、馬券戦術は変えないといけないということですね。
馬主の一分 (競馬ベスト新書)馬主の一分 (競馬ベスト新書)
マイケル タバート

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2015年8月5日水曜日

読書『100の思考実験: あなたはどこまで考えられるか』ジュリアン バジーニ著


思考実験とはいえど、『頭の体操』シリーズのような頭を柔らかくして、トリッキーな解を導き出すといった本ではなく、哲学や倫理など古来から考え続けられてきた”答え”のない問いを正面から考えてみようといった思想寄りの本です。
頭の体操 BEST頭の体操 BEST
多湖 輝

光文社
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そういう意味ではサンデルの『これからの「正義」の話をしよう』に近いですし、実際にかの有名な「トロッコ問題」なんかも取り上げられています。
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
マイケル サンデル,鬼澤 忍

早川書房
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「テセウスの船」「水槽の中の脳」「ギュゲスの指輪」はなど広く知られる思考実験を一つ一つ吟味していきます。
100の思考実験: あなたはどこまで考えられるか100の思考実験: あなたはどこまで考えられるか
ジュリアン バジーニ,河井美咲,向井 和美

紀伊國屋書店
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2015年8月3日月曜日

読書『競走馬私論―プロの仕事とやる気について』藤沢和雄著


藤沢和雄調教師が著された本を読みました。
新しい本ではないので、藤沢先生がシンボリクリスエスやゼンノロブロイを送り出すより前の話が中心ですね。
その分、教師になろうとしていた大学時代から、イギリスへの4年間の調教修行、そして幾度も調教師試験を受験して、やっと開業するまでなど下積み時代の話が余すところなく書かれていて非常に興味深い。
馬主と調教師の関係性の機微が描かれていたのも非常に面白く読めました。
あとはやはりタイキブリザードやタイキシャトルの海外挑戦記が読んでいてゾクゾクしました。


競走馬私論―プロの仕事とやる気について (祥伝社黄金文庫)競走馬私論―プロの仕事とやる気について (祥伝社黄金文庫)
藤沢 和雄

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2015年8月1日土曜日

読書『都市のドラマトゥルギー』吉見俊哉著


ぼくの指導教官の吉見俊哉先生の著書を拝読しました。
この本、実は先生の修士論文が下敷きになっているというから驚き。
本書は、近代的な都市化のなかでの盛り場の意味的な機制の変容を、都市に集合した人々の相互媒介的な身体性の側から捉え返すことを目指したもの。
とあるように、都市論をドラマトゥルギー=演技論の視覚から捉え返した論考。
〈演じる〉ことの根底にあるのは、間身体的な相互性を超越論的な審級との相互性に媒介していく、文字通りドラマティックな運動である。 
<浅草なるもの>から<銀座なるもの>へ、そして<新宿なるもの>から<渋谷なるもの>への 通時的な都市の変遷が理論的に論証されていくのが、個人的には方法論として、論の組み上げ方として非常に勉強になりました。
都市のドラマトゥルギー (河出文庫)都市のドラマトゥルギー (河出文庫)
吉見 俊哉

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2015年7月31日金曜日

読書『きみはポラリス』三浦しをん著


『舟を編む』以来だったか、三浦しをん先生の本を読む。
恋愛もののアンソロジー。
きっとど直球の恋愛ものは受け付けないのだけど、そこはさすが三浦先生。
広い読者に読ませる捻りのあるプロットは物語の書き手にとっては大いに勉強になるのではないか。
個人的には「森を歩く」が一番ツボでした。
彼氏の素性を特に気にとめることもなく1年以上も過ごして、ドラッグディーラーかと思いきや、実はプラント・ハンターだったりする。
悲しいわけでも、ハッピーエンディングでも、なんとなくふんわりとした終わり方が新しくて良かった。

きみはポラリス (新潮文庫)きみはポラリス (新潮文庫)
三浦 しをん

新潮社
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2015年7月28日火曜日

読書『群像の時代 動きはじめたメディアコンテンツ』志村一隆著


明日のメディア』などでも知られる志村一隆さんの新著を読みました。
先日、下北沢B&Bで行われた今著の記念出版イベントに取材で行き、店頭で買いました。

マスメディアからソーシャルへというよく言われる大局的なメディア論のシフトは抑えながら、アドテク、人工知能、ゲーミフィケーションなどなど周辺領域などの各論をも網羅しつつ、次のメディアの行く末を占った本。
高城剛さんじゃないですが、志村さんも数年の間に多くの国を旅し、そこで得られた最新の海外メディア事情の知見もふんだんに詰め込まれている。
この本の要約的ハイライトとしては以下のような節でしょうか。

コンテンツビジネスの要諦は、著作権とコピー技術の独占だった。スマホなどのデジタル・テクノロジーが、その独占を民主化する。(10頁)
コンテンツとしての高価な映像とコミュニケーションのツールとして使われる安価な映像が入り交じる群像の時代。「悪貨は良貨を駆逐する」ではないが、量で凌駕する安価な映像は、映像がコンテンツとしてしか存在し得なかった時代にできた映像文法を変化させるだろう。(165頁)
20世紀は映像の世紀であるとは先人の言葉。21世紀は群像の世紀である。(166頁) 
群像の時代 動きはじめたメディアコンテンツ群像の時代 動きはじめたメディアコンテンツ
志村 一隆

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2015年7月23日木曜日

読書『断片的なものの社会学』岸政彦著


昨日、二子玉川の蔦屋で購入した本を読了。
「社会学」とタイトルにありますが、内容は断想が連ねられたエッセイに近い。
この本は何も教えてくれない。ただ深く豊かに惑うだけだ。そしてずっと、黙ってそばにいてくれる。小石や犬のように。私はこの本を必要としている。(星野智幸)
と帯にあるように、この本では社会学的になにかを追求したり、実証的に証明したりするのではなく、”分析されざるものたち”を取り上げ、あったかもしれない未来を重ねながら、筆者の岸さんが優しい筆致で思いを馳せていく。

帯の裏側に書いてあった文章が全てを要約してくれているので引用。
どんな人でもいろいろな「語り」をその内側に持っていて、その平凡さや普通さ、その「何事もなさ」に触れるだけで、胸をかきむしられるような気持ちになる。梅田の繁華街ですれちがう厖大な数の人びとが、それぞれに「何事ものない、普通の」物語を生きている。
どこかの学生によって書かれた「昼飯なう」のような つぶやきにこそ、ほんとうの美しさがある。[...]小石も、ブログも、犬の死も、すぐに私の解釈や理解をすり抜けてしまう。それらはただそこにある。[...]社会学者としては失格かもしれないが、いつかそうした「分析できないもの」ばかり集めた本を書きたいと思っていた。
断片的なものの社会学

2015年7月19日日曜日

読書『なんで水には色がないの?』五百田達成著


面識もある著述家・五百田達成さんの『なんで水には色がないの?』を読みました。
まだ未読なのですが、『察しない男 説明しない女 男に通じる話し方 女に伝わる話し方』が大ヒットされていますよね。
最近では『スッキリ!!』のコメンテーターもされてて、大活躍ですね。

この本では東大教養学部というバックグラウンドを遺憾無く発揮し、文理問わない「どうして水には色がないのか?」「なぜ宇宙には空気がないのか?」「眠くなるのはどうしてか?」など子供が自然に疑問を持ってしまうようなこと、(大人は当たり前として疑問視すら忘れてしまっていること)をピックアップ、優しい語り口で紐解いてくれます。
中学生くらいなら普通に読める内容ですし、大人にとっても知的好奇心が刺激される良書かと思います。

2015年7月18日土曜日

読書『イニシエーション・ラブ』乾くるみ著


「最後の二行が衝撃」と言われ続けていたので、注意して読んでいたつもりなのですが...。
最後の解説文があるため、「まだ終わらんだろう...」と思っていたら...オワリ!
「え、え」と15秒間戸惑う...。Aサイド・Bサイドで読んだプロットを繋ぎ合わせる。
「うおー!そういうことか」というアハ体験にも似たスパーク。
10人いたら8人は途中では気づかないんじゃないか。
物の見事に練り上げられた構成。とくに時代背景の描写が秀逸ですね。
筆者の実体験なのか、そうではないとしたら恋愛に相当コンプレックスを抱いていて、周りの恋愛を相当集中して観察したとしか思えない。
映画も観たい!です。

2015年7月14日火曜日

読書『旅のラゴス』筒井康隆著


テンポよく疾走感のあるプロットが読んでいて気持ちよかった。
『百年の孤独』のストーリーラインの骨子を”旅”に置き換え、極限まで冗長な部分は排除して、あっさりとさせたような。
ショートショートが数珠繋ぎのように続いていくようなストーリーなので、読んでいても飽きがこない。
かといって人物描写にひねりもないので、SFなようでいて、心象風景は現代にもありふれた普遍的な人間同士のやりとりだったりする。

2015年7月13日月曜日

読書『10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと』山口揚平著


大学院で同じ研究科の同期でもある、思想家・山口揚平さんの新著をサクッと読む。
普段からFacebookにポストしている慧眼溢れる断想を、ストーリーテリングでまとめ直したもの。
物語の流れ方はどことなく『ユダヤ人大富豪の教え』のようなところもありつつ、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』などでも一貫して述べられているように、貨幣経済から信用経済という専門である貨幣論のダイナミックな移り変わりが近著でも重要なエッセンスに。
ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣 (だいわ文庫)ユダヤ人大富豪の教え 幸せな金持ちになる17の秘訣 (だいわ文庫)
本田 健

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なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?
山口 揚平

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時代のキーワードが散りばめられつつ、いま世界でなにが起こっているのかの肌感覚がつかめるので、広い読者にオススメな一冊ですね。
10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと 答えのない不安を自信に変える賢者の方法10年後世界が壊れても、君が生き残るために今、身につけるべきこと 答えのない不安を自信に変える賢者の方法
山口 揚平

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2015年7月11日土曜日

読書『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』武田砂鉄著


「cakes」や「Yahoo!ニュース」で名前を目にすると、ついつい読んでしまうWEBでは数えるくらいくらいしかいない、ライター名で記事を読んでしまう書き手の処女作。

たとえば「SEKAI NO OWARIは「中2病」ではなく「高3病」」のようにトレンドとなっている時事ネタを痛快に読み解き、一刀両断に斬りまくるのが気持ちいい。
本著ではちょっと肩に力が入りすぎたのか、伝えたいことに対して、言葉が変に力みすぎてて、読みにくい部分も散見されたが、それでも読みの深さと比喩やライティングテクニックはさすがの一言。
勉強になります。
この本で試みていることはおそらく一つで、あとがきから引用。
決まりきった言葉が、風邪薬の箱に明記されている効能・効果のように、あちこちで使われすぎている。どこまでも自由であるべき言葉を紋切型で拘束する害毒を穿り出してみたかった。言葉は人の動きや思考を仕切り直すために存在するべきで、信頼よりも打破のために使われるべきだと思う。誰からともなく処方箋が示されている言葉に縛り付けられるのではなく、むしろ覆すために、紋切型の言葉をああだこうだ解体してみようと思った。
紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす
武田 砂鉄

朝日出版社
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2015年7月10日金曜日

読書『ジャイロスコープ』伊坂幸太郎著


電車移動用に伊坂幸太郎の文庫本『ジャイロスコープ』を読む。
彼の長編はかなり読んでいるけど、短編をまとまって読むのはあまりないので新鮮。
リズムよく伏線が回収されていくお得意のスタイルは短編でこそ真骨頂を発揮するのではないか。
そしてなにより見事なのは、作品横断的にプロットが絡み合い、登場人物たちが交錯していくストーリー。
巻頭にある「ジャイロスコープ【gyroscope】」の定義の最後、
回転するコマを三つの輪で支え、自由に向きを変えられるようにした装置。応用により、物体のずれや揺れを防ぐ。また、外力を加えるとコマ独特の意外な振る舞いをすることから、転じて、輪を同じにしながら各々が驚きと意外性に満ちた個性豊かな短編小説集を指す。 
いやはや、小説の醍醐味を全面に感じますね。
ジャイロスコープ (新潮文庫)ジャイロスコープ (新潮文庫)
伊坂 幸太郎

新潮社
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2015年7月9日木曜日

読書『愛と幻想のファシズム』(上・下)村上龍著

愛と幻想のファシズム(上) (講談社文庫) 愛と幻想のファシズム(下) (講談社文庫)

お世話になっているメンターのような方にお薦めされて読んだ村上龍の『愛と幻想のファシズム』。
村上龍は当たり外れが激しいと個人的には思っていて、(たしか前回読んだのは『イン ザ・ミソスープ』か『イビサ』だった)
一方で、『五分後の世界』の世界や『半島を出よ』のような、渾身の力作もある。
今著は後者に属するもので、あとがきにも記してあったように、かなりの数の経済書を渉猟し、専門家にも取材を多数行っているのが物語を読み進めるだけでも理解できる。

この本を通貫するテーマは「狩猟(hunting)」と「革命」。
一介のハンターがカリスマ性だけでファシスト組織をゼロから組成し、日本、世界を相手に革命を起こしていく。

国際政治の力学(どこまでリアリティがあるかは措くにしても)もヴィヴィッドに描かれ、読み応えは抜群。
スタートアップの人たちこそ共感できるノリというか、「リソースが足りなくて」と嘆息をついている人こそ、一読の価値があると思う。
なにかうねりが生じるとき、元をたどれば、一人の人間の狂乱から生じた妄想と推進力だったりするということが分かる。

2015年7月5日日曜日

読書『何者』朝井リョウ著


新潮文庫の100冊」が今年もやってきました。サイトもいい感じです。
毎年、読了本の割合が増えていっている気がしますが、そういえば未読だった朝井リョウさんの『何者』を購入。
何者 (新潮文庫)何者 (新潮文庫)
朝井 リョウ

新潮社
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当初はツイート文章が差し込まれていることに違和感がありましたが、読み進めていくにつれ得心。
この物語でツイッターをはじめとしたソーシャルメディアは決定的な役割を果たすからです。
これは新しい表現形式だな、と思いました。
就活の経験がある人ならば誰でも頷いてしまう場面がずっと続いていきます。
次は『スペードの3』あたりを読んでみようかと。

2015年7月2日木曜日

読書『ぼくは愛を証明しようと思う』藤沢数希著


メルマガ『週刊金融日記』でおなじみ藤沢数希さんのcakes連載が単行本化になった『ぼくは愛を証明しようと思う』を読了。(7割くらいはすでに連載の方で読んでいた内容だったかと思いますが)
ぼくは愛を証明しようと思う。ぼくは愛を証明しようと思う。
藤沢 数希

幻冬舎
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連載から周りで読んでいる女友達が何人かいたんですよね。
女性からしたら、男のリアルな恋愛観が開陳された貴重な資料だったのかもしれません。

「モテ=ヒットレシオ×試行回数」という恋愛工学の根底にある方程式があるのですが、これってわりかしどんなことでも当てはまるのかなあと。
そう考えると、学問の違いはあれど、普遍性を抽出することは意外に容易に思えたりします。もともと恋愛工学が基礎にしているのは金融工学だったり、心理学だったりするわけで。

帯にも冒頭にも、元インテルCEOアンドリュー・グローブの
"Technology will always win."(最後にはいつだってテクノロジーが勝利する)
という言葉が使われているにもかかわらず、最後に待っている結末がなかなか爽快です。

2015年7月1日水曜日

読書『ラリルレ論』野田洋次郎著


今日までの世界を脱ぐのだ。
中学校の終わりから高校のはじめにかけて、貪るように聴いていたRADWIMPS。 
思えばラジオから流れてきた「25コ目の染色体」に衝撃を受けたのがはじまりだった。
そう、つまり彼らが高校を卒業し、ちょうどメジャーデビューするタイミングから聴き始めたということになる。
そして、発売されたサードアルバム。
RADWIMPS3~無人島に持っていき忘れた一枚~RADWIMPS3~無人島に持っていき忘れた一枚~
RADWIMPS

EMIミュージック・ジャパン
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このアルバムは今でもRADの最高傑作だと思っているし、「おとぎ」は何度聴いたか分からない。はじめて入ったスタジオで「最大公約数」を弾いたのも懐かしい。

立て続けに、エルレにもハマったのだけれど(音楽的には、当時のど真ん中のアーティストを聴いていた典型的な学生だった)野田さんと細美さんが使う英詞の意味を知りたい、という単純な動機もあって、英語だけは真面目に勉強した記憶がある。

思えば、(歌の歌詞はもちろん)野田さんの言葉はずっと追いかけていた気がする。
ガラケー時代の日記(おそらく、というか絶対今はもう閉鎖されていて見れない)も欠かさず見ていたし、5年前だったか、『papyrus』に掲載されたインドの放浪記も当然読んだ。

papyrus (パピルス) 2010年 04月号 [雑誌]papyrus (パピルス) 2010年 04月号 [雑誌]


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RADの音楽から離れてはいたけれど、こうして野田さんのまとまった文章を読むのはやっぱりグッとくるものがある。
この本を通読して、再び音楽を聴いてみると、中高生のときのような脳天を揺さぶられるような感覚は、残念だがもうない。
だけれど、ファーストの「心臓」を聴いて、蘇る、あのギュッと胸が締め付けられるような感情と、青森の雪道をバスで帰京していたときの情景がふわっと浮かんでくるから、音楽が記憶を喚起する力はすごい。

ラリルレ論ラリルレ論
野田 洋次郎

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2015年5月5日火曜日

読書『さまよえる近代―グローバル化の文化研究』アルジュン・アパデュライ

さまよえる近代―グローバル化の文化研究グローバリゼーション研究(とりわけ文化研究寄り)の学問的ブレークスルーというか、一つの嚆矢となったであろうアルジュン・アパデュライの代表的著作を読了。6年間分の論文をまとめたものというだけあり、各々がわりと独立性を持ったトピックを扱ってはいますが、根底にはグローバリゼーションが進行し、単にネーションが衰退したり、興隆したり、という現象をみせているだけでなく、まったく違うレベルでトランスナショナルな情況があると主張。有名なのは①エスノスケープ(民族の地景)②メディアスケープ(メディアの地景)③テクノスケープ(技術の地景)④ファイナンススケープ(資本の地景)⑤イデオスケープ(観念の地景)というようにグローバリゼーション下の文化フローを5つの次元に輪切って把捉しようという提言をしたこと。グローバリゼーションに注目するということは、必然的に「ローカリティ」にも目を向けるわけですが、ぼくの指導教官でもある吉見俊哉先生が解説で簡潔にまとめていらっしゃった箇所が非常に分かりやすく、腹落ちしました。「ローカリティは、常にコンテクスト被規定的であると同時にコンテクスト生成的でもある。それは諸々の物理的-技術的な媒介によって条件づけられていると同時に、そのような媒介的な場を絶えず作り出し、グローバルなものに介入してもいるのだ」繰り返し注意を向けていたトランスナショナルな次元での新しい諸問題が生起するといっていたことと、今日イスラム国が跋扈している現状を合わせて考えると、どこか不気味な様相を呈しています。

2015年5月4日月曜日

読書『二十歳のころ』(Ⅰ・Ⅱ)立花隆+東京大学教養学部立花隆ゼミ編

二十歳のころ〈1〉1937‐1958―立花ゼミ『調べて書く』共同製作 (新潮文庫) 二十歳のころ〈2〉1960‐2001―立花ゼミ『調べて書く』共同製作 (新潮文庫)

大好きな本ですね。できれば中三〜高校生の方々に読んでいただきたい。ジャンルにとらわれない、有名無名さまざまなインタビュイーを東大生が取材していく。ぼくは元来自伝とかバイオグラフィー、人の半生に触れるのが大好きです。なにより自分自身を「相対化」することができるんですよね、他者のレンズを通すことで。あとは違う時代を生き抜いた人々の証言には、時代の臭いがプンプンする。この本で特に熱情を持って語られるのは全共闘時代ですよね。気になった人に関しては、今なにをしているのか、著作はあるのか、都度調べたりしたのですが、当然亡くなられている方も少なからずいて、「さあ、どうやって生きていこうか」と自己反省的に読書を進めたのでした。

2015年5月3日日曜日

読書『白本』『黒本』『青本』高城剛著

白本 黒本

歩きながらサクッと高城さんのメルマガ本を読む。内容的には高城さんのグローバルなノマドライフから得たライフハック的な知見から、断捨離的なマインド、徹底した日本のマスメディアへの不信感(とくに黒本ではテーマとなっています)、そしてときにスピリチュアルへと、軽やかに氏の私見を披瀝していきます。
良い悪いは抜きにして、迷える子羊にとっては箴言なまとめなんだろうなあ。


青本

『黒本』『白本』がオープンスタンスでジャンルを問わず回答されているのに対して、『青本』が話題にするのは旅に関連する質問のみ。
その中で、行ってみたいなと思ったのはスリランカのアーユルヴェーダですかね。

2015年5月1日金曜日

読書『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』(上・下)ダニエル・カーネマン著

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) ファスト&スロー(下) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

ダン・アリエリーの行動経済学の著作をはじめ、人間の認知の誤謬というか、臨界点を学術的に洗った著作は知的好奇心をそそられますよね。特にカーネマンはノーベル経済学賞を受賞しているだけあり、論理の組み立て方が非常に勉強になる。とくに本著は一般大衆向けに書かれた本なので、軽妙な筆致で書かれており読んでて飽きがこない。この本で終始一貫して取られてる論法はタイトルにもあるように、速い思考/遅い思考。基本的に人間は直観に基づく速い思考のなかで生活を営んでいるが、もちろん熟慮・戦略が求められる遅い思考も同様に必要となる。
認知的に忙しい状態では、利己的な選択をしやすく、挑発的な言葉遣いをしやすく、社会的な状況について表面的な判断をしやすいことも確かめられている。
とくになんとなくこれまでに感じていた人間の不合理性や自分の都合のよいように物事を曲解して解釈しようとする習性に違和感は持っていた。それに対して、学術用語=フレームを当てて、説明されるとその分、納得感も倍増。たとえば「利用可能性ヒューリステックス」(availability heuristic)なんかはその一例。
直接は言及されていなかったけれど、このタイミングでこの著を一般向けに書くということは、それなりの意図があったのではないかと思う。
自分の実感値として、すぐに思い浮かぶのはやっぱり「Google」の存在。ちょっとした分らないことに遭遇したときに作動するのは速い思考でもなく、遅い思考でもなく、検索エンジンだったりする。当然、これが日常化すれば人間の思考力は後退していくわけで、暗にこういった現況に警鐘を鳴らしているのではないか。

カーネマンじゃないですが、アリエリーのこの動画はたまに観るようにしてます。


2015年4月29日水曜日

読書『グローバリゼーションの文化政治』テッサ・モーリス=スズキ、吉見俊哉編

グローバリゼーションの文化政治 (グローバリゼーション・スタディーズ)指導教官の先生が編集なさった本を読む。やっぱり出自が政治経済ということもあり、文化研究、カルチュラルスタディーズのパースペクティブから「グローバリゼーション」を読み解いた著作は読んでいて新たな発見が多い。ただ、学問が違えど、グローバリゼーションが孕む自家撞着性に行き着く。すなわち、グローバルでヒト・モノ・カネが行き交うなかで、ナショナリズムが台頭してくるということ。あとは帝国/周縁というフレームワークが多用されがちななかにあって、視点をズラすと、"トランスナショナル"という新たな位相が浮かび上がってくる。アメリカン・ヘゲモニー、ディアスポラからピジン語、インドカレーまで幅広くマクロ/ミクロにグローバリゼーションを論じた本書で印象的だったのは、大半の論者がアパデュライの論考に一度は論及していたこと。まあ出版年度が2004年というのも関係しているんでしょうね。