松井博さん(@Matsuhiro)の『企業が「帝国化」する』を読みました。
松井さんはアップルの元シニアマネージャーということで、アップルに長年勤続されて(今は退職なさってますが)黎明期から覇権期までの過程も内部で見ていたという稀有な経歴の持主。
この本で主題となるのは副題にあるような大企業―アップル、マクドナルド、エクソンモービル、グーグルなどの超巨大企業。
このほとんどの会社の企業規模をGDP換算すると、中途半端な国家規模の財政よりも遥かに大きな財力を有しているところばかり。
グローバリゼーションが成熟化してきて、国家の主権性が揺らぐ中で、巨大企業は多国籍というよりも無国籍という様相を呈してきた。
国連が国際社会の主権者を担えない以上、これらの新しい覇権者たちを統制する手立てがない。たとえば問題になってる租税回避もそうですね。
これは今月読んだ本の中でも衝撃的だった『(株)貧困大国アメリカ』で痛いほど気付かされたことで、だからこそ、それとの関連でもっと深く知りたいと思い、その「私設帝国」の中で仕事をしてきた松井さんのこの本が気になったわけです。
アップルを退職されてみえてきたということで、社会が以下3つの側面から成り立っていることをまず指摘しています(これは広く認識され始めていることですが)
世の中は「仕組み」を創る少数の人々、「仕組み」の中で使われる大半の低賃金労働者、そして「仕組み」の中で消費を強いられる消費者という3つの側面から成り立っている。
先述の堤未果さんの著書の冒頭で問題となっていた点を想起しておきたいと思います。
なぜ失業率に喘ぐ米国が雇用対策を差し置いて、フードスタンプ(日本でいえば生活保護)の宣伝に巨額の広告費を投じ、弱者保護を押し進めるのでしょうか。
一面的な見方に囚われれば、(特にリベラルの低階層)からは歓迎されそうですが、その僅かばかりのフードスタンプで購入できるのは栄養価の低い加工食品のみで、生鮮食品は値段が高く手にすることができません。
栄養価の低さはその反面、トランスファットにみられる脂肪分の多さや異常な糖分を含み、米国社会内における少年少女のみならず全年齢層における肥満化を招くという悪循環を引き起こしています。
こうした社会における肥満化は日米共にエンゲル係数が下がり続けていることとも関連して考えられることです。
この問題の見落とされがちなファクターとして松井さんは「食料価格の低下」を指摘しています。その中でも特に肉類の価格は通時的に下がり続けている。
なぜならば過去50年間にわたって飼料となる穀類(特にトウモロコシ)の価格が下降しているからで、この背景には米国政府による助成があるわけです。
「ファームビル:農場の生産と価格を規制する法令」と呼ばれる、よく知られた法令がありますが、この恩恵を受けているのは既述の加工食品会社(Eg. ケロッグ、クラフトフーズなど)で異性化糖は米国内の穀類の需要の半数をも占めるのです。
こういった構造的な仕組みをみたうえで、松井さんは「餌付けされる社会的弱者」として深刻にその実態を描いていきます。
たとえばこれは僕の実体験とも符号するものなのですが、アメリカの学校給食におけるピザの頻度の多さ。(日本人にはにわかに信じがたいことですが、アメリカではピザは野菜を含むため、バランスの取れた食事として認識されるのです)
「スクールランチ法」というものがあります。これは給食における野菜の割合を規定した法律ですが、企業の激しいロビー活動に遭い、トマトソースが「野菜」としてカウントされることになってしまったというのです。
参考:The Washington Post: No, Congress did not declare pizza a vegetable
映画『フード・インク』では太りすぎて歩けない鶏が話題になっていましたが、人間にとっても問題は同じなのです。
こうした社会における肥満化は日米共にエンゲル係数が下がり続けていることとも関連して考えられることです。
この問題の見落とされがちなファクターとして松井さんは「食料価格の低下」を指摘しています。その中でも特に肉類の価格は通時的に下がり続けている。
なぜならば過去50年間にわたって飼料となる穀類(特にトウモロコシ)の価格が下降しているからで、この背景には米国政府による助成があるわけです。
「ファームビル:農場の生産と価格を規制する法令」と呼ばれる、よく知られた法令がありますが、この恩恵を受けているのは既述の加工食品会社(Eg. ケロッグ、クラフトフーズなど)で異性化糖は米国内の穀類の需要の半数をも占めるのです。
たとえばこれは僕の実体験とも符号するものなのですが、アメリカの学校給食におけるピザの頻度の多さ。(日本人にはにわかに信じがたいことですが、アメリカではピザは野菜を含むため、バランスの取れた食事として認識されるのです)
「スクールランチ法」というものがあります。これは給食における野菜の割合を規定した法律ですが、企業の激しいロビー活動に遭い、トマトソースが「野菜」としてカウントされることになってしまったというのです。
参考:The Washington Post: No, Congress did not declare pizza a vegetable
映画『フード・インク』では太りすぎて歩けない鶏が話題になっていましたが、人間にとっても問題は同じなのです。
実態を知れば知るほど馬鹿げているとしか思えない施策の裏には松井さんがいうところの「私設帝国」がロビー活動を通して暗躍しているのです。
実はロビー活動の仔細な内訳や繋がりはOpenSecrets.orgというサイトなどに分かりやすい形でまとめられているとのこと。
ただし、このような論理をまず知らない、というのが第一の関門なわけです。(話は微妙に逸れますが、参考までに先月書いた『情報生存学』参照)
例えば、米国では全州で遺伝子組み換え食品の表示義務がありません。
これはひとえに巨大な財源に裏打ちされた私設帝国が巨額の予算を投じて、啓蒙活動を押さえ込んだり、反キャンペーンを実行するからです。
法律や政治、正義の砦であるはずの領域までもが私設帝国の財布に牛耳られているのです。
最近の例では、カリフォルニア州で始めて立法が成立するかとの希望がありましたは、モンサント社の激しいロビー活動の前に、潰されていまいました。
最近の例では、カリフォルニア州で始めて立法が成立するかとの希望がありましたは、モンサント社の激しいロビー活動の前に、潰されていまいました。
立法過程を牛耳る私設帝国の動きはある意味でマクロなものですが、では実際に学校給食で出される食べ物の中身はどうなっているのかというミクロな問題にも数多くの由々しき問題があるのです。
松井さんが取り上げているのは「ピンクスライム事件」。
ピンクスライムとはアメリカで2012年3月頃まで大量に使われていた「LFTB(Lean Finely Textured Beef:赤身のきめ細かい牛肉」と呼ばれる加工肉で、これは牛肉を切り分ける行程で除去された「クズ肉」から遠心分離で脂肪を取り除き、雑菌の繁殖を抑えるためアンモニア水溶液で洗浄したもののことを言います。
この加工肉は俗称で「ピンクスライム」と呼ばれるのです。
長年、注目されることのなかったこの問題がなぜ今になって問題視されるようになったかというと、料理研究家であるジェイミー・オリバーが「食品革命」(Food Revolution)としてあるテレビ番組の中で、実際にピンクスライムを洗濯機やアンモニア水溶液を使ったデモンストレーションを聴衆の前で行ったことが話題を作りました。
この行程は非常に酷い。その映像は今もユーチューブでみることができます。
このように「食」をも司るようになった帝国については一章分を割いて4章で取り上げられています。
タイソン・フーズやカーギルなどはこの問題を追えば追うほど出会う企業の筆頭で、成長ホルモンを投与されて異常な早さで発育するブロイラーはもはや気味が悪いですが、家禽に限らず大規模農場化(フィールドロット)で大量生産される家畜牛も多くの問題が指摘されています。
こうした牛には濃厚飼料と呼ばれるトウモロコシ、大麦、小麦、米などの穀類の種部、また大豆や油かすなどを使用して作られた極めて高カロリーな飼料に+アルファで成長ホルモンが混ぜ込まれたものが餌として与えられ、こうして太らされた牛たちは消費者好みの脂肪分をたっぷりと含んだ、柔らかい肉へと最適化されていくというのです。
とまあ、ここまでは「食」の話を中心に進めてしまったわけですが、松井さんは「私設帝国」が社会のあらゆる領域を侵犯し始めていることを資料を適宜使用しながら説明しています。
これからは超巨大企業の中枢に勤務するごく一部の層が高い所得を維持し、大多数の凡庸な人々は、彼等が構築したシステムの中で低賃金で使われる時代になっていく。
勝者総取り(Winner Takes All)の様相を呈している現代の社会で、じゃあどうすればいいの?というのが10章の主題です。
「創造力」の重要性をとりわけ主張していて、これは僕も同意なのですが、ここではより根本的というか即時的なものを指摘しておきます。
松井さん自身もこの本で体現なされているように、まずは外国語(英語、中国語はよく言われるようにもはや当たり前のツール、前提条件となっています)
ビジネスコミュニケーションのツールとしてはもちろん、情報へのアクセスが日本語と英語ではまったく違ってくると。
ウィキペディアで同じページをみても、英語と日本語では情報量の豊穣さが一目瞭然で違いますよね。
情報量が多いということは、相対的に質の良い情報が埋まっている可能性も高いということです。「玉石混交」で石ももちろん多くなるが、玉も同じだけ多くなるのではないかということ。
いくら翻訳があるといっても、未だ自動翻訳の精度はぬかりないものとは言い難いし、英書にしても翻訳までには必ずラグが発生してしまう。その間に置いて行かれる。
アカデミズムでも同じ事が言えます。どれだけ国内の学会で評価されていようが、ワールドワイドにみたらまったく見向きもされないわけです。
これってすごく勿体無いことだと思う。
よく言われるように「英語はツール以上でも以下でもない」でも、自分が唯一無二の"ナニカ"を持っている時、それを伝える、発信するための"ツール"がないということは、ただそれを自分の中に「死蔵」させ、それを「昇華」させるための手段を持たないということにほかならない。
あとは、超高齢化社会や社会保障制度の崩壊など、問題が山積している日本にもはや積極的に住まう理由がないというのは高所得者層や知識階級の人の中でちらほら聞く議論ですが、データを引くとこれはすでにその層の人たちの間では確固たるものとして、実行の移されているようです。
僕らの知らない間に社会はむごむごと動いているということ。
中間層が没落していく中で、低階層はより絞られていき身動きがとれなくなってくる、上階層はスムーズにしたたかに移動を続け、あらたなるターゲットに照準していく。
最後に松井さんが列挙する「私設帝国」の条件と特徴をそれぞれ見ておこうと思います。
【3つの条件】
①ビジネスの在り方を変えてしまう
Eg. iTunes、IKEAの組み立て式家具、マックのセルフサービス
②顧客を「餌付け」する強力な仕組みを持つ
Eg. Googleの検索サービス、スマートフォン
③業界の食物連鎖の頂点に君臨し、巨大な影響力を持つ
Eg. IT業界:Google、Apple 石油:エクソンモービル
【機能的な特徴】
①得意分野への集中
反面教師:ソニー、パナソニック
アップル:消費者向けのエレクトロニクス、マクドナルド:ハンバーグ、エクソンモービル:石油と天然ガス、IKEA:組み立て家具、ウォルマート:小売り
②小さな本社機能 ・徹底した外部委託
Eg. アップル:フォックスコン、マクドナルド:タイソン・フーズ、 ストラテジー、マーケティング
③世界中から「仕組みが創れる」人材を獲得
④本社で「仕組み」を創り、それを世界中に展開
⑤最適な土地で最適な業務を遂行 Cf. オフショアリング Eg. フィリピンのコールセンター、ルーマニア 社内の徹底した自動化:複雑なトラッキングシステム
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